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第1部 本

脳&心理&人工知能

小説みたいに楽しく読める脳科学講義(大隅典子)

『小説みたいに楽しく読める脳科学講義』2023/7/31
大隅 典子 (著)


(感想)
 脳科学研究の歴史をたどり、ブレインテックまで脳にまつわる素朴な疑問を遺伝子・細胞レベルで解説してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに
第1章 脳の構造と機能のおはなし
第2章 さまざまな動物の脳と脳をつくる細胞のおはなし
第3章 脳の発生のおはなし
第4章 脳の発達と老化のおはなし
第5章 脳科学研究のいま
おわりに
さくいん
   *
『小説みたいに楽しく読める脳科学講義』というタイトルだったので、脳科学的に「記憶」「意識」「創造性」に関する最新研究を総合的に解説してくれる本だと思ってしまったのですが、この本は「脳の神経細胞」の「分子生物学」や「発生生物学」に関する解説が中心で、「意識」「創造性」に関する脳科学的な解説はほとんどありませんでした。
 それでも脳の神経細胞がどのように構築されていくのか、脳が老化するとはどのような状態か、などについて生物学的に詳しく知ることが出来て、とても勉強になりました。
 例えば「第3章 脳の発生のおはなし」では……
「(前略)神経幹細胞は、基本的には脳室から脳の表面まで、ひと繋がりの細胞です。したがって、神経管でニューロン新生がさかんになっていくと、神経幹細胞の丈がどんどん伸びていくのです。」
 ……などの「脳がどのように出来ていくか」について、じっくり学ぶことができました。4章の最初に、3章のまとめが書いてあったので、以下に紹介します。
「第3章で、私たちの脳は受精後四~五週目という早い時期に神経管という原基が現れはじめ、神経管に“番地”がつけられることで脳や脊髄が領域化され、これが多様なニューロンを生み出す下敷きになることをお伝えしました。神経幹細胞は当初、対称分裂によって数を増やし、さらにその後に非対称分裂によって、自身を維持しつつニューロンを生み出します。また、ニューロン産生時期の神経幹細胞(より厳密にいえば神経前駆細胞)が放射状グリアという特殊な形をしており、“お母さん細胞”として、生まれた子どものニューロンが移動する足場にもなることも紹介しました。大脳皮質に生まれる興奮性ニューロンは、このように放射状に移動しますが、抑制性ニューロンは大脳基底核原基で生まれて、接線方向の長い旅を経て大脳皮質に定着します。」
 ……脳のニューロンの作られ方は、かなり明らかになってきているんですね!
 また「第4章 脳の発達と老化のおはなし」では、「シナプスの「刈り込み」」の重要性について書いてありました。ヒトの幼若期には、余分なシナプスが刈り取られて、神経回路が整理されていくのですが、この刈り込み現象により、残った“強い”シナプスの神経伝達が効率的なものになると考えられているそうです。これにはミクログリアが関わっているようで、次のようにも書いてありました。
「ミクログリアは、これまで脳の損傷に対して活性化し、死んだ細胞やその残骸を除去することが知られていましたが、正常な発生・発達過程において、あるシナプスの活動性が他の活動性よりも弱いことをみつけると、そのシナプスを取り囲んで食べてしまうのです。」
 ……刈り込まれるだけだと脳細胞が減ってしまうのでは? と不安になってしまいますが、次のように書いてあって少し安心しました。
「(前略)いくつになっても脳細胞はつくられるのです。ただし、ニューロン新生は加齢により減少するということも事実です。」
なお老化にともなう脳の変化としては……
「脳の大部分では生まれる前に産生されたニューロンが生涯にわたって使われるので、徐々に細胞内外の“お掃除機能”が衰えてきます。その結果として、アミロイドβなどがゴミとして溜まってしまったのが老人斑です。老化した脳にはこの他、「神経原線維変化」という病理所見も現れ、こちらは「タウ」という名前のタンパク質が凝集したものです。」
 ……このような脳内のゴミをなど、うまく除去できるようになると良いのですが……今後の治療法への研究に期待したいと思います。
 最後の「第5章 脳科学研究のいま」では、脳の病気を治すことにつながるかもしれない脳研究として、「光遺伝学」、「BMI(脳に電極を直接埋め込んで脳活動を計測し、脳へ刺激を与えたりすることで、脳と機械を仲介する技術)」、「VRやAR」なども紹介されていました。
『小説みたいに楽しく読める脳科学講義』……脳について遺伝子や細胞レベルでわかってきたことを中心に教えてくれる本で、とても参考になりました。「記憶」「意識」「創造性」などが中心の一般読者向けの「脳科学」本とはちょっと違いましたが、ソフトウェアではなくハードウェアとしての脳について学ぶことが出来たと思います。脳に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『小説みたいに楽しく読める脳科学講義』