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第1部 本

生物・進化

「生命の40億年」に何が起きたのか(林純一)

『「生命の40億年」に何が起きたのか 生物・ゲノム・ヒトの謎を解く旅 (光文社新書 1291) 』2024/1/17
林 純一 (著)


(感想)
 最も古い生命の痕跡が見つかったのは、今から約40億年も前の地層。そこから現在に至るまで、地球には様々な生物が誕生しました。それらの生物に共通の特徴は、「細胞」を基本単位とすること。「細胞」が生き物の本質なのか?……生物学者の林さんが深く考察している本です。
 はじめの「第1部 生命の再定義」で行っている、生命や生物、ゲノムや遺伝子などの生物学の基礎となるキーワードの見直しが、とても分かりやすくて勉強になりました。その内容はとても多くて紹介しきれませんが、「エピローグ」に「第1部 生命の再定義」の簡単な箇条書きのまとめがあったので、それを紹介します。
1)生命の基本単位が「細胞」なら、生命の基本単位は「自己複製する核酸(ゲノム)」
2)自己複製する核酸(ゲノム)を持つかどうかが生命と物質(無生物)の境界線
3)最初の生命の誕生は「物質としての核酸」が「自己複製する核酸」へ変化したとき
4)「自己複製する核酸」が「生命の起源」
5)「核酸の自己複製」という化学反応は生命の起源から始まり現在の生命も継続中
6)生命とは「核酸の自己複製」という化学反応そのもの
7)プラスミドやウイロイドなどはゲノムだけで生きている生命
8)核ゲノムのなかにある古代生命(レトロポゾン)や、わずか6塩基対のテロメアも生命
9)ミトコンドリアは細胞のなかにある細胞、レトロポゾンはゲノムのなかにあるゲノム
10)ヒトは核ゲノム、ミトコンドリアゲノム、レトロポゾン、テロメアなど多様なゲノムを持つ複合生命で、核ゲノム以外は全て無性生殖
   *
 ……こんな感じで、「エピローグ」には本書全体(第2部、第3部)についての簡単なまとめがあるので、最初にこれを読んでおくと内容を把握しやすいし、読み終わった後も復習しやすいと思います。(ここでは項目のみを紹介しましたが、本書にはもっと詳しい説明もあります)。
 個人的に興味津々だったのは、「第2部 ゲノムの表現」の「個体老化」に関する話。
 例えば真皮に存在するヒトの繊維芽細胞は培養すると細胞分裂を繰り返すのですが、30~50回で分裂が遅くなり分裂できなくなります。これがいわゆる老化で、その原因はテロメアの短縮なのだとか。
また個体老化の原因には、この「細胞老化」の他に、「ミトコンドリアの呼吸活性低下によるエネルギー不足」もあるそうです。次のようにも書いてありました。
・「おそらく、核ゲノムに存在する葉酸回路に関わる遺伝子のスイッチが、エピゲノム装飾によって徐々に抑制されているのだろう。それによりミトコンドリア内の翻訳系のみならず、細胞分裂も少しずつ抑制されて、ミトコンドリアの呼吸活性低下や細胞分裂遅延を引き起こしているのではないだろうか。」
・「(前略)核ゲノムは自らが発現するテロメラーゼ遺伝子の発現を、エピゲノム修飾によって抑制するだけで細胞老化を誘発し、さらに葉酸回路の遺伝子の発現を徐々に抑制することで、老化にともなう呼吸活性低下や細胞分裂遅延を誘発している。そして、これらはすべて個体老化の原因の一部だ。しかも、生体の細胞から未受精卵への核移植で生まれたクローン動物は、寿命そのものまで初期化されていたことから、どうやら個体老化の謎を解く鍵も個体形成と同じようにエピゲノム装飾にあるようだ。」
 ……エピゲノム装飾が、人間の体の成長から老化までの道筋を決めているのかもしれません。
 このエピゲノム装飾は、自然な状態では「不可逆」なのですが、特殊な操作でリセットさせることは、できるそうです。もしかしたら将来的には、それを利用した劇的な若返りが期待できるかも?(笑)。
 そして、とても斬新に感じたのが、第三部「ゲノムの創造」で展開されていた「人たらしめるものは何か」について。「人たらしめるもの」は、ヒトゲノムと文明の両方だとして、次のように書いてありました。
・「(前略)ヒトの赤ちゃんは生まれてすぐに文明のシャワーを浴びるようになるが、これば、ヒトから人に変身していくためにはどうしても必要な儀式なのである。文明を創造できる高度な認知機能は、同時に文明を理解できる高度な認知機能でもあり、文明の教育(勉強)という儀式はまさにヒトを人にするという重要な役割を担っている。」
・「(前略)ヒトゲノムと文明の教育の両輪を使って、ヒトは人になることでようやく特別な存在になれるのである。その結果、(中略)ゲノムから圧倒的な支配を受け続ける生命活動(個体形成、個体老化、子孫形成)のごく一部を、人は自分の意思で変更することができるようになる。」
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 ……なるほど! と納得してしまいました。他の動物と違って人間は、生まれただけでは人間になれず、文明を学ぶことで、はじめて人間になる……人間はそのままでは不必要なほど大きな脳を持って生まれてきますが、それを効率的に活かすためには、どうしても学習が必要……それを考えると……人間の脳の進化は「文明」を前提としていたのかもしれません……。
『「生命の40億年」に何が起きたのか 生物・ゲノム・ヒトの謎を解く旅』……核ゲノム、
ミトコンドリアなど、生物学の基礎知識を分かりやすく学べる上に、人間の進化や特性について考えるための新しい視点を与えてくれる本でした。
 この他にも、「ヒトの核ゲノムの意味不明の反復配列は、謎の古代生命が過去に核ゲノムに侵入して自己複製を繰り返した痕跡かもしれない」などの興味深い情報をたくさん得ることが出来ました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『「生命の40億年」に何が起きたのか』