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第1部 本

生物・進化

ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵(村井裕一郎)

『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』2024/1/16
村井裕一郎 (著)


(感想)
 発酵とはそもそも何なのか、なぜ発酵が今世界で注目されているのか、発酵の歴史や種類などを、室町時代から600年続く種麹メーカーの29代当主が分かりやすく教えてくれる本です。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「私は、「種麹」を代々製造・販売してきた糀屋三左衛門の第二十九代当主を務めています。
 味噌、醤油、清酒、焼酎、みりん、酢など、麹を用いる醸造メーカーの9割以上は、当社のような種麹メーカーから麹菌を購入して商品を製造しており、当社も現在では、全国3000社以上に種麹を販売しています。」
 ……種麹って、メーカーから買うものだったんですね……知りませんでした。
 さて、「発酵」とは、「微生物の活動によって物質が変化すること」で、微生物の力を利用するメリットは、次のようなものだそうです。
「まず、微生物の増殖の早さを活かし、人間が工場でつくるよりも効率よく物質を生産できます。また、もともと自然の中に存在している微生物を利用するため、人工的につくられた薬品を利用するよりも環境への負荷が少なく、人間の手や機械ではつくることができない複雑な物質も、微生物によって生産できます。
 これらのメリットをより強化するため、狙った通りの物質をより効率的に生産できるよう、微生物の遺伝子を操作して活用しようと遺伝子工学の技術も使われています。」
   *
 ちなみに「発酵」と「腐敗」の違いは、人間にとって役に立てば「発酵」、害になれば「腐敗」なのだとか(笑)。納豆は日本人には「発酵」ですが、外国人の多くは「腐敗」と思うんでしょうね……。
 ちょっと驚いたのが、次の「発酵につかわれる3種類の微生物」。
1)カビ(麹菌など)→鰹節、甘酒など
2)酵母(パン酵母、ワイン酵母、ビール酵母など)→パン、ワイン、ビールなど
3)細菌(乳酸菌、納豆菌など)→ヨーグルト、納豆、漬物など
 ……麹菌は「細菌」だとばかり思っていましたが、実は「カビ」だったんですね!
 そして発酵食品には、次の4つの機能があるそうです。
1)栄養機能(発酵させることで、カロリーやタンパク質が摂取しやすくなる)
2)嗜好機能(発酵させることでタンパク質がアミノ酸に代わり、うま味になる)
3)生体調節機能(発酵で大豆のイソフラボンが増加するなど)
4)保存性
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 そして「麹菌=カビ」より驚いたのが、「食べ物の中にある酵素が人間の体内で働くことは基本的にない」ということ! 次のように書いてありました。
「(前略)食べ物の中にある酵素が人間の体内で働くことは、(ごく一部の酵素を除き)基本的にはありません。酵素は肉や魚と同じタンパク質でできているので、ほぼすべての酵素は胃で消化されます。
 例えば、麹菌の出したプロテアーゼ(酵素)を、私たちが腸で食べ物の消化にそのまま使うということはできません。もしも、食べ物として食べた酵素が体内でも働いたら、人間の身体もタンパク質でできていますから、内臓や血管などがドロドロに溶けてしまいます。」
 ……ああー! 確かにそうですね! 麹菌は酵素を生産して、酵素はタンパク質を分解する働きがありますが……食べ物の酵素がそのまま体に作用したら、体のタンパク質が壊れてしまうんだ……発酵食品は、うまく働いているんですね!
 でも……だったら「発酵食品が体に良い」と言われるのはなぜ? と思ったら、その理由もちゃんと書いてありました。
「それは、微生物が出す酵素が切り刻んだ、消化がよく、様々な栄養が豊富に含まれた食品を食べるからです。」
 ……なるほど。
 さて発酵食品には、味噌・醤油・パン・チーズなどいろいろありますが、清酒や焼酎も発酵食品です。その焼酎(蒸留酒)についても、次のような豆知識を得ることが出来ました。
「(前略)清酒は安定した醸造のために寒冷な環境を必要とします。温暖な地域では清酒造りは難しく、また、つくったとしても、品質が劣化しやすくなります。しかし、蒸留酒であれば清酒と比べ製造中に腐敗する恐れがなく、また、保存もしやすいことから、薩摩地方を起源とし焼酎づくりが盛んになったと考えられています。」
 ……それで温暖な九州南部や沖縄では、焼酎や泡盛などの蒸留酒が特産品になっているんですね!
 また清酒とワインの違いについては……
「清酒の原料である米は農産物ですから、毎年の出来・不出来が生じます。その出来・不出来を複雑な工程の中で整えていくのは杜氏です。消費者側も、同じ銘柄の同じランクの商品であれば、「毎年変わらぬ味」として、一定の品質の幅に収まっていると信じています。いわば、「工業的世界観」の商品と言えます。
 それに対してワインは、原料であるブドウの毎年の出来・不出来が製品の味に直結し、むしろ、年度ごとに品質のブレがあることを前提にしています。だからこそ、ビンテージ、当たり年という概念が生まれます。
 清酒の場合は清酒メーカーが米を購入することが多いですが、ワイナリーの場合は醸造家が自分でブドウを育てることが多いです。すなわち「農業的世界観」の製品と言えます。
 この「農業的世界観」の延長にあるのが、「テロワール(地域性、気候や風土を大切にする考え方)」という世界観です。」
 ……うーん、なるほど。清酒に「当たり年」があまりないのは、杜氏の優れた才能のおかげなんですね……。
 というか……この話を読んで、醤油や味噌も微生物を使った発酵食品なのに、品質が常に一定で、いつも同じ味で食べられるのは凄いな、と改めて感心させられました。
「(前略)日本ではコンビニやスーパーで発酵食品を買うとき、私たちが品質の心配をすることはほぼありません。変な匂いのする味噌や、傷んだ醤油が売られていることは、現代ではほぼないといって良いでしょう。」
 ……まさしく、その通りです。日本の発酵技術は、本当に素晴らしいですね!
「日本の発酵は、複数の微生物を用いて調和を図るというものでした。つまり、「発酵」というタンクの中に、複数の微生物を投入し、そこに小さな生態系(エコシステム)をつくり上げるという発想です。」
 ……発酵には、何か禅的思想(マインドフルネス)に通じるものまで感じてしまいます。
『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』……「発酵」について総合的に分かりやすく教えてくれる本で、とても参考になりました。なんと付録には、家庭でもできる「麹の作り方」の説明書もついています(糀屋三左衛門のHPで販売してる家庭用種麹をつかって米麹を作る方法です)。興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵』