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第1部 本

描画参考資料

かたちには理由がある(秋田道夫)

『かたちには理由がある (ハヤカワ新書 010)』2023/8/22
秋田 道夫 (著)


(感想)
 人が直感的に「いいな」と思うデザインの背後には、いったいどんな「理由」が隠されているのか? LED式薄型信号機、交通系ICカードチャージ機、トートバッグ、カトラリーなど、公共機器から生活用品に至るまでさまざまな「かたち」を手がけてきた人気プロダクトデザイナーの秋田さんが、自らの仕事について語ってくれる本です。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「(前略)正円は、最も「何の変哲もない」かたちです。だからこそ、使います。すでに飽きられているので、飽きられようがない。
(中略)わたしは基本的に、正三角柱や円柱、正方形や正円だけでデザインを組み立てています。そうすると、どこか一辺の長さを決めれば、あとは自動的に噛み合って製品全体のかたちが決まっていきます。それが美しいと思うのです。
 またそれは、輸送の効率やコストのことを考えても合理性があります。大量生産を前提とし、つねにクライアントの要望やさまざまな制約がセットになっているプロダクトデザインにおいては、ここが重要です。」
 そして「第1章 デザインとは「素敵な妥協」をすること」では、LED式薄型歩行者灯器のデザインを手がけたときの話で、次の文章がありました。
「(前略)美しいものだけを量産すればよいのですが、製造工程や素材、コストや構造など、製品を作るには様々な制約があって、どんなかたちのものでも自由に作れるというわけではありません。
 そのあたりのさじ加減を調整して、いい案配のかたちを提案するのが、工業デザイナーであり、プロダクトデザイナーかなと、わたしは思っています。」
 ……LED式薄型歩行者灯器の裏面は曲面になっているのですが、それは歩行者灯器を薄く見せたかったからで、縦に五本の溝が入っているのは、スーツケースのように強度を上げたかったから。さらに背面の両端の溝は、組み立て工場のローラーの幅に収めて作業効率を上げるためなのだとか……まさに「かたちには理由がある」んですね。「ところてん方式(同じ断面形状のまま押し出す)」での製作の都合上、上下方向の曲面になったようですが、結果的には、積雪・強風対策としてもメリットがあったそうです。
 また「第2章 大量に使われる製品は、「研ぎすまされたふつう」でなければならない」では、「アーチ状三本脚で支えるルーペ」や「80㎜」という湯飲みなどをデザインしたことの話とともに、次の文章が心に残りました。
「わたしのやることはデザインの核の部分を考えることで、あとは詳しい人に任せる方が良い結果になることが多いと思っています。」
「大事なポイントはしっかり押さえますけど、突き詰めないでも構わない場所や、コストや製法上、突き詰めると誰かに無理をかけてしまう部分についてはあまり言及しないようにしています。」
 ……「デザインの核」の部分は妥協せず、それ以外の部分は専門家の知恵を取り込んだり製造部門の意見を取り入れたりすることが大事なのでしょう。
 そして最後の「第3章 良い仕事をするには「腑に落ちた日常」が必要です」には、次の文章がありました。
「プロダクトデザイナーというのは、スポーツで言えばトライアスロンのようなものだと思っています。絵の上手さ、勉強の出来、アイディア創出力、その三つのバランスが良くないと上手くいかない種類の仕事です。」
「教育的なものや、美意識を育てるようなものは、やりたいというより、プロダクトデザインの義務ではないかと考えています。いわば「しつけのデザイン」。いくつかの大学で教えたりもしていますが、本当は、自分が直接なにかを教えるのではなく、的確にデザインされたモノやメソッド、システムといったものを通じて伝えたいのです。」
 ……「自分が直接なにかを教えるのではなく、的確にデザインされたモノやメソッド、システムといったものを通じて伝えたい」……こんなことが出来れば最高ですね!
『かたちには理由がある』……「大量に使われる製品は「研ぎ澄まされたふつう」でなければならない」とか、「いつも気をつけているのは、手にした人が「乱暴に使いたくないな」と思ってしまうような気配を持たせることです。少し緊張感があって、いざとなればラフにも使えるけれど、なるべく大事に使おうと思ってもらえるようなデザインは心がけています」など、デザインをする上で、とても大事なことを教えてもらえる本でした。
 140ページの薄い本で、語り口も簡潔で分かりやすく、この本自体もとても「シンプル」なものになっています。冒頭には、本書で紹介されている製品の写真(フルカラー8ページ)もありました。
 とても参考になったので、多くの方、特に工業製品を作っている方や、デザインが好きな方に、ぜひ読んで欲しいと思います。

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かたちには理由がある