ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

描画参考資料

生きものハイウェイ(佐々木洋)

『生きものハイウェイ』2023/10/20
佐々木洋 (著), 中村一般 (イラスト)


(感想)
 地図にはないけど奥深い、縦横無尽に広がる「生き物の通り道」。生き物ハイウェイとは、生き物の通り道のことで、本書では、住宅街や幼稚園の園庭、ビル街、寺社、河川敷など10のフィールドに分けて紹介してくれます。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「本書では、私たちが毎日のように目にしている場所に、生き物の通り道がたくさん広がっていることを知ってもらったり、その世界を想像してもらったりすることを最大の目的としている。
 ただ、私は各地で自然解説を行ってはいるものの、ホームグラウンドは東京なので、季節感や動植物は、そこを基準として文章を書いていることはご了承いただきたい。」
 そして「第1章 住宅街」からは、具体的にそこにどんな生き物がいるのかを紹介してくれます。
 章の最初のページには、「その場所の典型的な情景イラスト」があり、その次のページでは、「その情景の中で注目すべきポイント」が示されています。例えば、電柱・道路標識・プランターの下・中央分離帯・墓石・朽木の中・ドングリ・郵便受け・セーターなどです。そして次のページからは、文章で、その注目ポイントにどんな生き物がいるか(昆虫、爬虫類、鳥、魚、哺乳類など)を詳しく教えてくれる、という構成になっています。
 最初に登場するのは、「住宅街」の「電線」。なんと電線を通る生き物の代表ともいえるのは、ハクビシンだそうです! ……ええ? ハクビシン? ……東京の生き物ハイウエイだからと思って完全になめていたので、すっかり度肝を抜かれてしまいました。
 東京でも、電柱にはワシ、タカ、フクロウなどの猛禽類がとまり、生垣には小鳥、昆虫だけでなく、アオダイショウ、タヌキ、ハクビシンが隠れていて、ビル街の建物の隙間にいるのは、ドブネズミとクマネズミ、アライグマ、さらに街灯にはアブラコウモリが乱舞し、ネオンサインのまわりにはハクセキレイ、ムクドリ、昆虫を狙うニホンヤモリが……うわー……生き物はそれほど苦手ではないほうですが……じっくり見ようとすれば、東京ですら、こんなにたくさんの生き物を見つけられることに驚きました(正直、見つけたくないという気持ちもありますが……)。
 ただ……生き物に出会いたくなくても出会ってしまうのが「夜の自動販売機」周辺。次のように書いてありました。
「自動販売機の明かりは大きく、一晩中灯っているので、いろいろな昆虫とそれらを狙う生き物が集う。まさに「街のライトトラップ」なのだ。コガネムシ、ガなどの常連から、カブトムシ、クワガタムシなどというスペシャルゲスト、日中の昆虫と言うイメージが強い、チョウ、トンボ、セミに至るまで、くる。最近では、逃げ出したのか、故意に放されたのか、外国産のカブトムシやクワガタムシさえ出現する。そして、それらを狙って、ニホンヤモリ、アズマヒキガエル、人間の子どもなどもやってくる。
 しかし、多くの昆虫が、つるつるでほぼ垂直の自動販売機の商品ディスプレイカバー上をたくみに歩き回れるのは、なぜなのだろう。じつは、あしの先端部分に毛がはえていて、そこから粘着力のある物質が出ているからなのだ。」
 ……なるほど。昆虫の足からは粘着力のある物質が出ているんですね……長年不思議だと思っていたことの謎がようやくとけました(苦笑)。
 そして、とても微笑ましかったのが、園庭での子どもたちの様子。幼稚園のやや湿った土の上にはダンゴムシなどがいますが、子どもたちはよくプランターをひっくり返して、その下を見たがるそうです。そこには、いろいろな生き物が隠れていることを知っているから……これ、私も子どもの頃、ドキドキしながら、よくやっていました(笑)。
 佐々木さんが「カタツムリを探そう」と子どもたちに言うと、ほとんどの子がアジサイに向かって走っていくそうです。でもそれは間違いなのだとか。実はアジサイには毒があるので、カタツムリはほとんどいないそうです。このエピソードには、子どもたちの賢さ(絵やイラストに多い組み合わせをちゃんと知っている)と同時に、子どもたちが自然からすっかり遠ざかってしまっている現実も痛感してしまいました。次のようにも書いてありました。
「私は、週に何度も、主に都会の幼稚園や保育園などで、自然観察の授業を行う。そして自宅から園まで、一度も土の地面を踏まずにやってくる園児の多いことに、毎回のように驚いている。確かに、タワーマンションの部屋からエレベーターで1階に降り、アスファルトの地面を歩いてきたり、園バスや自家用車に乗ったりすれば、そうなるのだろう。だから園庭は、現代の園児たちにはとくに大切なのだ。土の楽しさや気持ちよさを、体験できるからだ。」
 ……まさに、その通りですね……子どもの頃、庭で遊ぶことが出来て幸せだったのだと思います。快適なマンションに暮らしていると、土とも虫とも無縁になってしまい、生き物自体が苦手になってしまいそう……せめて、ベランダで植物を育てるとか、春や秋の晴れた日には外に出て、雑木林があるような公園をゆっくり散歩したいものですね……。
『生きものハイウェイ』……東京にも意外に身近に多くの生き物がいることを教えてくれる本でした。ちょっと残念だったのは、ハクビシンやダンゴムシなどの生き物の写真やイラストがなかったこと。ダンゴムシはともかく、ハクビシンを見たことのない人はとても多いと思います。写真やイラストがあると、生物の図鑑的な知識も得られたのではないでしょうか。
 どんな場所で、どんな生き物に出会えるか、現代人の私たちからは失われつつある知識のように思います。
小説や童話、絵画などの創作をしている方は、情景描写に取り入れるための参考にもなると思います。ぜひ一度、読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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生きものハイウェイ