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第1部 本

伝記・職業紹介

これから学芸員をめざす人のために(杉本竜)

『これから学芸員をめざす人のために』2023/7/18
杉本 竜 (著)


(感想)
 三重県の桑名市博物館長が教えてくれる学芸員の仕事とその就職ガイドで、主な内容は次の通りです。
はじめに
第1章 学芸員をめざして
第2章 学芸員になったら
第1節 こんな仕事をしています―ある学芸員の一日
第2節 ミュージアムの仕事
第3節 講演会
第3章 これからの学芸員
第1節 学芸員のライフハック
第2節 学芸員と出世
第3節 レコーディングミュージアムのススメ
おわりに
おすすめの本
    *
「はじめに」によると、日本全国の学芸員の数は八四〇三人。やっぱりかなり「レア」な職業のようです。
 学芸員は国家資格が必要なようですが、大学で特定の単位を修得すれば取得でき、年間取得者数は1万人程度なのだとか……実際の学芸員数とはかなりギャップがあります。だから「自分の専門分野の募集が運よく就職活動している時期に出る」という前提条件をクリアしないと就職活動すら始められないという狭き門なのだとか。
「第1章 学芸員をめざして」によると、「博物館法第四条の四」に「学芸員は、博物館の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる。」と書いてあるそうです。
 学芸員に必要とされるのは学部卒の学歴。ただ相応の研究能力が要求されるので、大学卒から大学院修了程度が多いようで、募集が多いのは、考古学、歴史、美術(日本)、民俗なのだとか。次のようにも書いてありました。
「(前略)学芸員の募集は毎年毎年あるわけではありません。退職などによって、枠が空いた際に募集がかかりますので、自分の居住地近辺で運良く出ればよいですが、就職活動をしている時期に出ない可能性もあります。その場合は日本全国、いずれかで出た募集を受験することになります。」
「(前略)何度も何度も「ご活躍を祈念します」というペラ一枚をもらい続けることで、ショックを受けてしまう人が多いのがこの業界の就職活動だと思います。」
 ……うーん……募集がそもそも少ないんですね……。
 そして採用する側から言うと……
「学芸員採用の際は、なるべく「経験者」でかつ「よい人」を採りたいというのが本音です。」
……だそうで、「よい人」というのは「社交的で、トラブルを起こさず、事務能力が高い」+研究能力がある方のようです。
 どうしても学芸員になりたい方は、まず非正規雇用から入るという手もあるようです。
「(前略)非正規雇用の学芸員は、試験が公務員試験のように複雑でなく、志望者も少ないので合格しやすいのは利点です。また原則異動がないのも業務に集中する点では良いでしょう。しかし、一年更新が多く、雇用が安定していないのは精神的にも非常に負担が大きく大変です。」
 ……非正規で「経験」を積んで、どこかの博物館や美術館で募集が出るのを待つという方法もあるのかもしれません。
 博物館・美術館好きとして、興味深くて参考になったのは「第2章 学芸員になったら」。ここでは「ある学芸員の一日」や「ミュージアムの仕事」がどういうものかを具体的に知ることが出来ます。
「ミュージアムには、大きく分けて収集、保存、調査・研究、展示、教育普及の5つの事業があります。」だそうです。
 中でも興味津々だったのは、「展覧会」の話。次のようなことが書いてありました。
・「展覧会には大きく分けて「自前」と「購入」があります。
 そのうち「自前」とは、学芸員が企画を考え、展示プランを練り、予算を獲得し(時には助成金も取り)、出品作品を選定し、作品の配置案を考え(これを「図面を引く」といいます)、所蔵先と交渉し、断られたら代替案を考え、写真をそろえ、広報の手配をし、ポスター・チラシを作成し、講演会の会場と日取りをおさえ‥‥…(以下省略)」
・「一方、「購入」というのは、展示企画を行う会社がまるっと全部請け負ってくれる展覧会です。(中略)
 こちらですと、プランも考えずに済みますし、物販の手数料も入るかもしれないという良いことづくめです。しかもお客も入ります。」
 ……へえー、「購入」なんていう方法もあったんだ。
 学芸員は学術的な展示をしたいと思っているのですが、実は「儲かる」展示会を一年にひとつは入れておかないと、年間の目標入館者数は達成できないそうです。……なるほど、両方のバランスが重要なんですね!
 そしてこの後は、実際に展示会をするときには何が必要かなどの解説や、講演会をしたときの話など、「博物館の裏側ではどんな仕事をしているのか」について詳しく知ることが出来ました。
「作品を傷付ける可能性があるので、学芸員は基本的に時計や装身具や指輪などは身に着けない」とか、「美術専用車には後部座席があり、美術品輸送時には基本的に学芸員が同乗する」とか……。「替えがきかない大切な文化財」を扱う学芸員には、とにかく細かい気遣いが必要なようです。
「第3章 これからの学芸員」の「おわりに」には、「ミュージアムのノウハウ」として次の2つのことが書いてありました。
1)学芸員は「モノ」を取り扱う職業であり、プロである(箱紐をかける、掛軸を巻く、額を取り扱う、といった基本動作は確実に身体にいれておく)
2)文化財を恐れない
 ……博物館の学芸員の仕事が、少し分かったような気がします。
 巻末には「おすすめの本」もあり、博物館と学芸員の仕事を紹介している本のタイトルと概要紹介がありました。
『これから学芸員をめざす人のために』……学芸員をめざす人だけでなく、博物館好きにとっても興味津々な内容が満載の本でした。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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