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第1部 本

社会

報道弾圧(東京新聞外報部)

『報道弾圧 ――言論の自由に命を賭けた記者たち (ちくま新書 1741)』2023/8/7
東京新聞外報部 (著)


(感想)
 ウクライナ侵攻前後のロシアで、新型コロナ流行下の中国で、軍政のミャンマーで、内戦に苦しむ中東の国々で……世界中で繰り広げられる言論の自由を目指す戦いから、報道の力を捉え直している本です。
「まえがき」に、とても大切なことが書いてあったので、ちょっと長いですが紹介します。
「ジャーナリストの殺害や拘束が後を絶たないなか、報道の自由を守る方策を話し合う世界規模の初会議が二〇一九年七月、英国の首都ロンドンで開かれた。「報道の自由のための国際会議」の名称で、英国とカナダ政府が主催した。
 しばしば報道に圧力をかける存在である国家が、「自由を守る」と会議を開いた点について、参加した記者から疑念の声が上がった。一方で、政府の豊富な資金力や影響力が報道の自由を守る取り組みに使われることに期待する意見も聞かれた。(中略)
 会議では、ジャーナリストや報道機関の保護を目的とする多国間連合「メディアの自由コアリション(MFC)」が設立された。二三年六月現在、英国、カナダ、米国など五〇ヵ国以上が参加している。日本政府も二〇年に加わっている。
 また、英国とカナダが初期資金を拠出し、「グローバル・メディア・ディフェンス基金」が設立された。ジャーナリストへの法的助言や紛争地域取材の訓練費用に充てるという。基金は現在、国連教育科学文化機関(UNESCO)が運営し、日本も資金を出している。(中略)
 会議の開催や多国間連合の設立は、強権的な国家によるメディアの圧力で、民主主義の基盤となる報道をめぐる環境が厳しさを増している表れといえる。インターネットを通じた新たな伝達手段の普及や偽情報の拡散という問題も、環境の厳しさに輪をかけている。
 一方で、民主主義の看板を掲げている国家であっても、報道機関が財政面などで政府に依存することは、批判精神を鈍らせ、国民の知る権利に応えられなくなる危険性をはらむ。」
   *
 この国家主導で始まった多国間連合や基金は、今後、重要な役割を果たしていくのではないかと感じました。というのも、世界各地でジャーナリストは危険な立場にたたされながら取材・報道を続けているからです。
 本書の第一章から第六章まででは、フィリピンや、ロシア、中国や中東、トルコ、サウジアラビア、ミャンマー……各国で「その地で力を持っているもの」が、報道関係者を弾圧している状況が詳しく描かれています。1992年から2022年までにフィリピンで殺害された記者たちは156人、2021年までの30年でロシアでは80人以上の記者が殺され、イエメンの内戦では、ジャーナリストのほかにも人権活動家や一般市民など1222人が拉致され、24人が拷問で死亡、47人が死刑判決を受け……あまりにも恐ろしい状況に言葉を失ってしまいました(涙)。
 このような状況のなかでも、ジャーナリストや一般市民は、必死に取材や情報発信を続けているようです。例えば「第六章 ミャンマー 軍と報道」には、次のように書いてありました。
「軍政権下での報道活動は恐怖と隣り合わせだった。国軍関連の取材の際、服や鞄、新聞、ゴミ箱などに小さな穴を開け、内側にカメラを潜ませて隠し撮りした。撮影後はすぐに現場から逃げた。」
「クーデター後、民間メディアの活動が制約される傍らで、市民によるSNSでの情報発信が補完的な機能を担った。これに対し国軍は、通信会社にSNSへの接続の遮断を命じたり、ネット接続自体を制限したりという強硬策を採った。さらに、国軍に批判的な投稿者らを拘束した。圧力が強まる中で、情報量は減っていった。」
   *
 2021年のノーベル平和賞受賞を受賞したフィリピンのマリア・レッサは次のように言っています。
「報道の自由は全ての権利の土台だ。私たちが屈すれば、民主主義は死ぬ。権利は行使しなければ失う。恐れないでほしい。」
「事実がなければ、真実を得られません。真実がなければ信頼は生まれません。信頼がなければ、共有できる現実も民主主義もありません。
 私たちには事実に基づく情報の生態系が必要です。それは憎悪と嘘から利益を得る監視経済を規制して、ジャーナリズムを再構築することで成し遂げられます。
 記者を標的にする国家に立ち向かい、独立性のある報道を支援する必要があります。」
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 ……確かに。レッサさんの言うように、独立性のある報道を支援する仕組みが必要だと思います。「まえがき」で紹介したような多国間連合や基金が、そのために正しく機能することを願っています。そしてこれらが「国家主導」であることが問題なら、この多国間連合や基金を足がかりに、ジャーナリストたちが自ら新しい仕組みを作り上げていくことも出来るのではないかと思います。
 そして「国が情報を恣意的に操作する危険性」は、独裁的な国家だけでなく民主主義国家にもあるようです。「第七章 「民主主義」の国で」には、次のように書いてありました。
「昨今、報道機関の土台はいくつかの要素で揺らいでいる。一つは新型コロナウイルスの世界的流行だ。各種の移動規制が取材活動を制約し、経済活動の停滞は報道機関の経営にも打撃を与えた。
 そして、コロナよりも長期にわたり、世界の報道機関にとって脅威になると思われる存在が、デジタルプラットフォームだ。デジタルプラットフォームは、検索やSNSなどネットで基盤となるサービスを指す。
 こうしたプラットフォームは、スマートフォンなどを通じて、消費者にニュースを届ける事実上のインフラとなった。一方、ニュースの発行元は、広告収入を奪われ、経営が悪化した。サービスを運営するプラットフォーマーはニュースをタダで利用しているとして、対価を求める声が欧米を中心に高まっている。」
 ……確かに。私自身もプラットフォームで「ニュースのタイトル一覧」を眺めるのが日課になっていますが、これらのニュースの提供元の報道機関に、正当な報酬が与えられることが必要だと思います。
 また、フェイク(偽)ニュース問題については、次のように書いてありました。
「インターネット上に広がるフェイク(偽)ニュースを巡り、政府主導の規制が先進・新興国を含む世界各地で進んでいる。
シンガポール政府は、一九年四月一日、「偽ニュース・情報操作対策法案」を国会に提出した。ネット上の情報を所管の閣僚が虚偽と判断した場合、情報を広めた企業や個人に対し、投稿の削除や訂正を命じられるという内容だった。(中略)
新法案について、FBやグーグルなどが加盟する「アジアインターネット連盟」は「真偽を決める裁量を政府に与えることになる」と批判する声明を出した。」
 ……ちなみにこの「偽ニュース・情報操作対策法案」は成立し、一九年に一〇月に施行されたそうです。
次のようにも書いてありました。
「二二年二月に始まったロシアのウクライナ侵攻を巡っても、虚々実々の情報が流れた。国際対立が深まるなか、「情報戦」の名のもとでなされる偽ニュース対策によって、自由な報道が制限される恐れが強まる。報道機関は飛び交う情報のファクトチェックとともに、政府の動きにいっそうの注意を払う必要性が高まっている。」
 ……フェイク(偽)ニュース問題だけでなく、生成AIによる「本当は正確性が疑わしいのに、非常にもっともらしくみえる文章」についても、ファクトチェックが必要だと思うので、ぜひ専門機関を設立してチェックして欲しいと願っています。現在は各国とも国家主導で行われているようですが、ここで心配されている「権力による恣意的操作」を避けるために、今後は、報道機関や大学や博物館などの研究機関や一般企業が主体になっていくべきではないでしょうか。
『報道弾圧 ――言論の自由に命を賭けた記者たち』……ジャーナリストが置かれている厳しい現状をまざまざと教えてくれる本でした。より正確な報道を知るために、私たちが出来ることは何かを考えさせられました。とても大切な問題提起だと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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