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第1部 本

科学

科学でかなえる世界征服(ノース)

『科学でかなえる世界征服』2023/7/19
ライアン・ノース (著), Ryan North (著), 吉田 三知世 (翻訳)


(感想)
 悪の秘密基地に最適な立地はどこ? 永遠の命を手に入れるためには?
 アメコミで大活躍のスーパーヴィランが掲げる世界征服のプランを、科学オタクのマーベル・コミック作家のノースさんが徹底検討してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1部:スーパーヴィランの超基本〈スーパーベーシック〉
 第1章:スーパーヴィランには秘密基地が必要だ
 第2章:自分自身の国を始めるには
第2部:世界征服について語るときに我々の語ること
 第3章:恐竜のクローン作成と、それに反対するすべての人への恐ろしいニュース
 第4章:完全犯罪のために気候をコントロールする
 第5章:地球の中心まで穴を掘って、地球のコアを人質にする方法
 第6章:タイムトラベル
 第7章: 私たち全員を救うためにインターネットを破壊する
第3部: 犯罪が罰せられなければ、犯人はそれを犯したことを決して悔いない
 第8章:不死身となり、文字通り永遠に生きるには
 第9章:あなたが決して忘れられないようにするために
   *
 冒頭には、本書の概要が次のように書いてありました。
「これは、科学の限界と、科学の未解決問題についての本だ。つまり、人間がこれまでに発明した技術や、現在発明中の技術のおかげで今すでに可能になっていることには、どんな限界があるか、そして、もしも解決できたなら、今はまだ不可能なことが可能になるはずの未解決問題にはどんなものがあるかを紹介する本である。」
 また本書の「スーパーヴィラン(超悪人)」とは、次のような存在です。
「(前略)並みのヴィランの邪悪さをはるかに超えた存在でなければならない。つまりスーパーヴィランは普通の悪人にはできないことができなければならないのである。
 たとえば、世界をより良い場所にするとか。」
 ……ということで、この本は、「世界征服」をもくろむ「スーパーヴィラン」が、必ずしも悪いことではないけれど(むしろ良いことかも?)実現不可能に思える驚きの計画を、科学的な考察をもとにじっくり練っていく本なのです(笑)。
 最初の「第1章:スーパーヴィランには秘密基地が必要だ」から、驚きと笑いの連続でした。まずスーパーヴィランの秘密基地は、「隠れた場所で、持続可能で自給自足的で、あなたを数年(少なくとも数か月)は支えられるもの」でなければならないということで、砂漠の巨大基地から、豪華客船、人工浮島、巨大な気球(空中都市)などが次々と検討されていきます。
 秘密基地のお手本となる事例の一つが、「アリゾナに建設されたバイオ・スフィア2」。これは、総床面積1万2700平方メートルの、コンクリート、鋼鉄、ガラスでできた複合施設。1991年9月26日、男性4人、女性4人の計8名の科学者が、丸2年滞在予定で施設に入ったのですが、1年もたたないうちに内部分裂などの問題が多発、結果的には失敗に終わったそうです。建物内部のコンクリートが原因の酸素不足や、害虫や植物の感染問題などが多発してしまったのですが、なんと総床面積1万2700平方メートルあっても、8名用の食料用農地としては、不足していたようです……秘密基地って、こんなに大変なものだったんだ(苦笑)。
 こんな感じで、スーパーヴィランの世界征服計画は、どれも大規模で、巨大な資金が必要になることが次々と判明していくのでした。
 そしてこの本の秀逸なところは、おバカにしか思えないような「スーパーヴィランの世界征服計画」を通して、最新科学技術をたくさん学べること! なんと、笑いながら勉強できる素晴らしい本なのです。
 これは訳者の吉田さんの力によるものも大きいと思います。例えば、「第4章:完全犯罪のために気候をコントロールする」では、「気候変動の原因とその科学を、架空のチャットログで紹介」という面白い方法で、太古からの気候変動が、次のように紹介されていました(ここでは、その冒頭のみを「かなり簡略化」して紹介していますが、本では、ユーザー名やアイコン、会話の書き方などが、もっとずっと本物のチャットログのように描かれていますし、このチャットは「現代」まで続きます。)
<27億年前>
●シアノバクテリア(登録ユーザー)
「ぼく、進化して新しい能力を獲得したよ。
光と二酸化炭素と水を燃料にすることができるんだ。で、そのとき廃棄物として酸素を出すんだ。
何て名付けようか……「酸素発生型光合成」がいいや。」
●その他の生物(登録ユーザー)
「待て、何だよ、酸素だって?? げーっ、それぼくらには毒だぜ!! 殺す気かよ!!」
●シアノバクテリア(登録ユーザー)
「違うよ。ハハハ、鉄が酸化するし、地球は鉄に覆われているからね。鉄が酸素と反応してさびるのに酸素を全部使っちゃうんだよ。これや、ほかの「酸素シンク」が大気中の酸素濃度を、えーと、永遠に? って言うほど安定に保ってくれるんだよ。
●その他の生物(登録ユーザー)
「へえ、すげえ。ありがと」
   *
<24億年前>
●その他の生物(登録ユーザー)
「うわ。何てこった。何百万年も過ぎて、地球上の露出した鉄が酸化しちゃって、酸化していない鉄はもう残っていないから、酸素が大気中にどんどん増えているぜ! この「大酸化イベント」は大量絶滅を起こすぞ!!
俺たち皆殺しにすんのかよ。は」
●シアノバクテリア(登録ユーザー)
「そだね。でも言い訳させてもらうと、
ハハハ、としか言えないな」
●サイト管理者
「その他の生物はオフラインになりました」
   *
 ……どうです? この会話感、すごく本物っぽくて楽しいでしょ?(笑)
 このように、このユーモアたっぷりの科学本を、とても面白く翻訳してくれているので、どの章もとても楽しく読めました。
 そして新しい知識も学べました。例えば、「第9章:あなたが決して忘れられないようにするために」では、通信衛星の「墓場軌道」について……
「通信衛星の多くは、静止軌道にある。静止軌道とは、赤道の上空3万5786キロメートルを周回する軌道で、この軌道にある人工衛星は地球の自転と同じペースで運動する。(中略)
 しかし、その閉じた楕円の起動に配置できる人工衛星の数には限りがあるため、今新たに打ち上げる人工衛星は、耐用年数の終わりに達したときに、静止軌道から離れるために最後の燃料を保持しておくように法律で義務付けられている。そういった衛星は、さらに約300キロメートル上昇し、その後停止する(地球に落下して衝突するよりも、さらに上空の宇宙へ送るほうが安上がりなのだ)。人工衛星が死にいく、この静止軌道よりもさらに上にある軌道は、「墓場軌道」と呼ばれている。そこはほかのどんな目的にも使われておらず、見捨てられた衛星は、数億年を超える悠久の時を、ゆっくりとその高度で周回しながら存続することができる。」
 ……そんな軌道があったとは! もちろんスーパーヴィランは、この状況を利用して「決して忘れられないようにする」ことを企むわけです(笑)。
 ただしこの本、書いてあることをすべて鵜呑みにするのはお勧めしません。例えば「第1章:スーパーヴィランには秘密基地が必要だ」では、海中基地の部分で、次のように書いてあり……
「(前略)陸上の植物は数千年にわたって人類が選択交配した結果栄養豊富になっているが、海中でそれほどの栄養価を持つ植物を育てることはできない。人間がこれまでに家畜化した最大の水生動物はフナやコイである。」
 ……思わず笑ってしまいましたが、あれ? 養殖魚には鯛だとか、もっと大きい魚もいっぱいいるはずだよね? とツッコミをいれたくなりました。……まあ、細かい部分ですが……。
 それはともかく、全体としては、爆笑しながら科学が学べるという凄い本だったと思います。科学好きの人には、特にお勧めします☆ ぜひ、読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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