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第1部 本

描画参考資料

東京の美しいドボク鑑賞術(北河大次郎)

『東京の美しいドボク鑑賞術』2023/5/1
北河 大次郎 (著), 小野田 滋 (著), 紅林 章央 (著), 高柳 誠也 (著), & 1 その他


(感想)
 私たちの生活に欠かせない橋や電車、水門、トンネル、道路、ダムなどの土木構造物には、実はすごい技術や奥深い歴史が詰まっていることを、美しいフルカラー写真とともに解説してくれる本です。
 トップバッターは、「01 東京ゲートブリッジ」。トラスボックス複合構造(両側のトラス部分と中央の桁橋部分(ボックス桁)を連結させた構造)の橋です。次のように書いてありました。
「(前略)橋はまるで2頭の恐竜が向かいあっているように見えることから「恐竜橋」とも呼ばれる。」
 橋がこんな形になったのは、この場所が大型船が出入りする主要航路で、羽田空港の近くでもあるという、上と下から厳しく抑えなければならない条件にあったからで、結果的に、このような横に伸びた特殊な形の橋がつくられることになったそうです。
 そして私も大好きな、東京を代表する吊り橋の「08 レインボーブリッジ」。次のように書いてありました。
「(前略)おすすめのレインボーブリッジのビューポイントは2つ。ゆりかもめは自動運転のため、先頭の運転席に座ることができるが、一つ目はこの運転席からの眺望。新橋発豊洲行きの車両に乗り、芝浦のループ部を上る時。走行につれレインボーブリッジがぐんぐん近づき、アングルを変えながらフロントガラス一杯に広がる。間近で見ると、その大きさと美しさに圧倒される。二つ目は、オーソドックスだが、お台場から眺める風景。(中略)背後に東京タワーや都心の高層ビルを従え、「ザ・東京」の風景が展開する。」
 ……ゆりかもめに乗っていると、こんな風に、あちこちで「わくわくポイント」に出会えて楽しいです☆

 またちょっと意外だったのが、「13 江戸城石垣」。これは「石垣の見本市さながら、江戸最大の土木遺構」だそうですが……「土木」というと何となく明治期以降のような気がしていましたが……もちろんこの江戸時代どころか、古墳時代にだって土木はあったんですよね……。
 そしてもう一つ意外だったのが、「14 千鳥ヶ淵」。なんと千鳥ヶ淵と牛ヶ淵は、谷を流れる川をダムによってせき止めることで生まれた水面だそうで、千鳥ヶ淵では、「家康がつくったダム湖と水面を行く首都高速」の景観を楽しめるのです。
 また「16 新見附濠・牛込濠」は、水循環システムの要となった棚田状の水路。この周辺で必要とされる水量をまかなえるよう、単に水を流下させるのではなく、レベルの異なる水面を階段状に配置したものだそうです。……そうだったんだ。
 国会前庭にある「17 日本水準点」は、目盛が温度変化しないよう緻密で硬い水晶が使われているとか、脆弱ではないこの地の地盤に、さらに深基礎が使われていて……
「高温多湿で地震も多い日本において、永久不変の原点であり続けるために、ここでは二重、三重の工夫が施されてきた。測量技術の発展目覚ましい今日においてなお、明治の技術者が周密精到に構築したシステムが、国土の基本であり続けているのが素晴らしい。」
 ……なのだとか。「日本の「高さ」基準を支えて130年」。今後も支え続けて欲しいです。
 そして「ちょっと変わった形をしているなー」としか思っていなかった「28 後楽園北歩道橋(三叉路の交差点にかかっているため、「人」の字を描いたような形をしている)」は、なんと世界でもここにしかない「3方向プレストレスとコンクリート有ヒンジラーメン箱桁橋(3つの橋げたはつながっておらず、付き合わせただけ。そこにヒンジ(蝶つがい)を設けた)」という構造をしているそうです。ここは交通量が多くて、工事中でも交差点内に仮設材を設置できなかったため、このような構造になったのだとか。
 そして本書で一番考えさせられたのが、「30 永代橋」。永代橋などの隅田川にかかる橋の多くは、関東大震災の復興で架橋されたそうです。災害以前の隅田川の鋼鉄橋はトラス橋(他の構造の橋に比べて鉄の量が少なくて済む利点あり)だったのですが、災害や第一次大戦が、橋の構造を変えることになりました。トラス橋には、部材が一箇所でも破断すると橋全体が崩落するという脆弱性があったので、復興局はこれを恐れて、鉄板を重ね合わせた堅固な鈑構造にすることを決めたそうです。そのため永代橋もソリッドリブアーチ橋として誕生したのですが、そのおかげで戦時中の多くの焼夷弾にも耐え抜き、人々の命を守ったのだとか……橋の構造は、いろんな理由で決められているんですね……。
 また隅田川の橋が多彩なのは、関東大震災の復興で建設したときに、同じ構造の方が安く済むという意見が多かったなか、「すべて同じ構造であれば、老朽化が同スピードで進行し、将来架け替え時期が重複することや、一定規模の地震が起これば、すべて落橋してしまうリスクがある。また別々の構造の橋にすれば若手技術者を育てることもできる」などの理由で、結果的に、このように様々な構造の橋になったそうです。
 この他にも、外から見るとコロッセオのような円形の建物に見える「50 大橋ジャンクション」は……
「大橋ジャンクションは、高架を走る首都高3号線と地下深くのトンネルを走る首都高中央環状線を巨大なループを描きながらつなぐ土木構造物だ。1周約400メートルのループを4層にわたって重層する構造になっている。(中略)
 道路部分の楕円ループの構造物の内側は、換気施設が整備されているとともに一部分はフットサルなどができる広場として開放されている。また、道路部分の屋上はループ状の構造を生かした屋上庭園がある。」
 ……さすが東京。ジャンクションの土地すら有効利用しているんですね……。
 この他にも「55 奥多摩湖の橋」には「麦山浮橋・留浦浮橋(構造は、ポリエチレン製の浮きの上に板を渡したいわゆる「浮橋」)」があって徒歩で渡ることも出来るとか、「60 長池見附橋」は、かつて四谷駅前に架かっていた四谷見附橋を、多摩ニュータウンに移設したもので、現在も使い続けられる大正期のネオバロック式アーチ橋(とても美しい風景写真!)だとか、行ってみたくなるような風景がたくさんありました。
 ちなみに、この本の表紙の不思議な風景は、東京の内水氾濫に対応するための「52 神田川・環状七号線 地下調節池(地下40mにひっそりと佇む巨大地底トンネル 全長4.5km)」だそうです。凄いですね☆
 東京の美しい土木構造物をエリア別にたくさん紹介してくれる本でした。各エリアの先頭には地図もあるので、どのあたりにあるのかも分かりやすく、各記事にアクセスのための情報もあります。
 フルカラー写真が美しく、眺めるだけでも楽しめます。建築や土木が好きな方は、ぜひ眺めて(読んで)みてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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