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第1部 本

教育(学習)読書

メイク・バンカブル!(黒木亮)

『メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫』2023/4/26
黒木 亮 (著)


(感想)
「ヤングバンカーだったわたしがロンドンに赴任したのは、冬から春に変わる季節だった。」……国際金融業務での激闘を元銀行マンの黒木さんが克明に語ってくれる自伝ノンフィクションで、内容は次の通りです。
第一章 マイワード・イズ・マイボンド
第二章 航空機ファイナンスにしびれる
第三章 アフリカの夜明け
第四章 メイク・アンバンカブルズ・バンカブル
第五章 中東のサソリ
第六章 二重マンデート
第七章 爆破テロ事件
第八章 エマージング・マーケッツ
第九章 米銀との激突
   *
「プロローグ」には、次のような文章がありました。
「(前略)国際協調融資の契約書は、担保などがないシンプルな案件の場合、英文で数十ページ、航空機ファイナンスやプロジェクトファイナンスなどは数百ページ以上、その一言一句につき、まずボロワー(借入人)と合意し、次にすべての参加銀行と合意しなくてはならない。
 ボロワーから課された調印日は四週間後で、かなりタイトな日程だ。」
「トルコ・エムラク銀行向け国際協調融資は爆発的に売れた。五千万ドルの引受額に対し、一億ドル以上が集まるオーバー・サブスクリプション(応募超過)になり、全部で三十一の銀行が参加する。」
 ……間違いが許されない巨額融資の契約書……緊張するハードな仕事のようです。
 国際金融業務の経験のない30歳の日本の銀行マンが、自ら希望してロンドンの国際金融課に赴任、精力的に仕事をバリバリこなしていきます。その仕事ぶりが具体的に分かるだけでなく、イギリス社会や社会金融業界の実態、さらには中近東、アフリカ社会の現実などもリアルに描かれていきます。
 例えば「第一章 マイワード・イズ・マイボンド」では、階級社会のイギリスのように、金融業界にも序列があることが次のように書いてありました。
「(前略)金融業界にも同様のヒエラルキーが存在する。頂点に立つのは投資銀行の英国版であるマーチャント・バンク(直訳は「商人銀行」)だ。これは元々、毛織物、砂糖、金、小麦といった商品を扱っていた大商人が、自己の信用力を活用し、貿易金融(具体的には貿易手形の引受け<保証>)を提供することから金融業に参入したもので、その後、証券の引受け・販売や、二十世紀後半にはM&Aなども手がけるようになり、米国でいう投資銀行と同様の金融機関になった。(中略)
 マーチャント・バンクと同じくらい有力なのが、米国の大手金融機関、その下にくるのが、英国の四大商業銀行であるナショナル・ウエストミンスターやロイズ、欧州や日本の大手商業銀行で、部門によって大卒と高卒が入り交じっている。さらにその下は地銀やビルディング・ソサエティ(不動産融資専門の金融機関)、世界中の雑多な金融機関である。」
   *
 ちなみに「マイワード・イズ・マイボンド」とは、「わたしの言葉がわたしの担保」という意味で、一度口に出したことは必ず守るという、シティのプロフェッショナリズムを表す言葉だそうです。
 このように金融に関するさまざまなことが紹介されるだけでなく、出張先や旅行先での食事に関するエピソードも詳しく語られていて、日本の銀行マンが海外でどのように生活しているかをリアルに感じることが出来ました。黒木さんは、旅の様子をしたためた絵葉書を北海道の両親と自分あてに出すのを習慣としていたようで、それが貴重な記録になっているようです。……さすがですね!
 そして「第二章 航空機ファイナンスにしびれる」では、互いの主張が激突する契約現場の状況がとても読み応えがありました。ここでは次のようなことも書いてありました。
「英国に限らず、欧米では仕事と家庭生活がきちんと分けられていて、取引先との夜の会食はあまりない。仕事上の食事は、もっぱらランチだ。案件が完了したあとの慰労会、ビジネス・チャンスを得るための情報交換、相手になにかを教えてもらうための接待など、目的は様々である。」
 このようなランチは12時半ごろ始まり、フルコースのメニューだそうです。「ランチ」にしてはかなり時間がかかりそうにも思いますが、情報交換や接待などが目的なので、有意義な時間になるようです。日本の接待は「夜」が多いような気がしますが、夜だとお酒が入ったり、時間制限が緩かったりするので、むしろこのような「ランチ」の方がずっと良いように感じました。
「第三章 アフリカの夜明け」では、ジンバブエやザンビアへの融資のための情報収集・分析や交渉など、「第四章 メイク・アンバンカブルズ・バンカブル」では、新しい融資の仕組みなど、海外での金融の仕事の実情を知ることができてとても興味津々でした。ちなみに「メイク・アンバンカブルズ・バンカブル」とは……
「中近東・アフリカでは、ボロワーの信用力が低く、なんらかの担保がないとなかなか融資はできない。わたしはいつも「メイク・アンバンカブルズ・バンカブル(銀行取引に適さないものを、適すようにする)」と呪文のように唱えながら仕事をしていた。バンカーズ・トラストが考案したトルコの葉タバコ輸出前貸しは、まさに「アンバンカブル」な案件を、「バンカブル」に変える、優れた仕組みだった。」
 ……ということだそうです。
 さらに「第五章 中東のサソリ」では、イラクで多国籍軍の猛爆が続くなか金融の仕事をしたり、なんと「第七章 爆破テロ事件」では、爆破テロに巻き込まれて負傷したりと、危険な目にも何度もあっています。北アイルランドの独立を目指すカトリック系過激派集団IRAの爆弾が、ビルの近くで爆発したのです。次のように書いてありました。
「午後九時二十分過ぎ、もうはっきりとは憶えていないが、資料をとりにいくためか、あるいはコピーをとりにいくために、席から立ちあがり、フロアーの中央に向かって歩き始めた。
 四メートルくらい歩いたとき、急に停電になり、オフィスが真っ暗になった。
(また停電か? まったくイギリスって国は……)
 心のなかで一瞬ぼやいた次の瞬間、ドワァーンというような轟音と、猛烈な風とともに、オフィス内のありとあらゆるものが、背中に飛んできた。無数のガラス片や書類や文房具や椅子などが、暴風雨のように殺到してくる。
 暗闇でわけがわからなかったが、思考の余裕もなく、とっさに近くの机の下に潜り込んだ。暗くてみえなかったが、すでに床一面にじゃりじゃりしたガラス片が飛散しており、あとでみると、てのひらを数カ所切っていた。」
 ……海外での金融の仕事には、「焦げ付き」以外にも多くのリスクがあるんですね(涙)。
 黒木さんは、この後、銀行を退職し、日本の大手証券会社の英国法人に転職していますが、これらの仕事をしていたのが三十歳代(それもほぼ前半)ということに驚かされます(しかも巨額の収益をあげたようです……凄いですね)。
『メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫』、海外での銀行マンの仕事をリアルに知ることが出来る本で、とても読み応えがありました。
 金融の専門用語が多く出てきて、その解説も勉強になりましたが、なんと巻末に「金融・経済用語集」がついていたことを読み終わった後で知り、途中、分からなくてスルーした用語もあったので、これを参照しながら読めば良かったなー……と思ってしまいました。小説のようなノンフィクションなので、まさかこんな配慮までしてくれているとは想像もしませんでした。さすがです。
 内容がとても面白いだけでなく、いろいろな意味で勉強にもなった素晴らしいノンフィクションでした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆

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