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第1部 本

科学

人間非機械論 サイバネティクスが開く未来(西田洋平)

『人間非機械論 サイバネティクスが開く未来 (講談社選書メチエ)』2023/6/12
西田 洋平 (著)


(感想)
 AIの源流となった科学がサイバネティクス。コンピュータの父フォン・ノイマンの影響のもと20世紀の知的世界を席巻し、認知科学やSFに影響を与えた科学なのですが、その起源には、現代科学と相反する思想も内在していました……サイバネティクスの創始者ノーバート・ウィーナーの思想から、その歴史を現代までたどり直すことで、不確かな世界を生き延びるための生命の科学としての「人間非機械論」について語っている本で、内容は次の通りです。
はじめに
第1章 機械は人間になり、人間は機械になる?――サイバネティクスの旅路
1 第三次AIブームの先に
2 コンピューティング・パラダイムの浸透
3 原点としてのサイバネティクス
第2章 制御と循環のはざまで――胚胎された岐路
1 フォン・ノイマンの論理
2 ウィーナーの憂慮
3 ベイトソンの調和
4 フェルスターの再帰計算
第3章 セカンド・オーダーへの浮上――観察することを観察する
1 自己の制御を制御する
2 環境のトリビアル化
3 認知的盲点
4 ファースト・オーダーからセカンド・オーダーへ
第4章 オートポイエーシスの衝撃――生命システムとは何か
1 生命の定義
2 生物非機械論の確立
3 生命現象としての認知
4 説明の円環
第5章 現実はつくられる――構成主義の諸問題
1 現実の発明法
2 グレーザーズフェルドのラディカル構成主義
3 共同的な現実構成
第6章 情報とは何か――情報学としてのサイバネティクス
1 サイバネティクスの情報観
2 新しい情報学の台頭
3 情報伝達というフィクション
第7章 まとめと展望――サイバネティック・パラダイムの行方
1 サイバネティクスと二つのパラダイム
2 ネオ・サイバネティクスの応用領域

参考文献一覧
おわりに
   *
 サイバネティクスとは、生物と機械を統一的な観点から理解しようと構想された、分野横断的な科学です。次のようなことが書いてありました。
「(前略)初期サイバネティクスの独自性は、フィードバック機構を「目的論的」機構として位置づけることで、それまでの科学には存在し得なかった「目的論的機械論」という領野を開いたところにある。」
「こうした「人間・生物=機械」という感触こそ、サイバネティクスが広く世界にもたらしたものの本質である。」
 ……なお、フィードバックとは、出力の結果を入力側に返すことで、理想的な状態をつくり出そうとする機構(メカニズム)で、サイバネティクスは、筋肉と神経系は、フィードバック機構を具現化した「循環する過程」として機能しているという見立てをしています。
 そしてサイバネティクスの起源の一つとなったマカロックとピッツの「神経活動に内在する観念の論理的計算法」という論文は、「神経活動と論理演算は形式として同じである(個々のニューロンを「真か偽か」を判定できる形式論理的な命題とみなせる)」ことを示していて、これがコンピュータにつながっていきました。次のように書いてありました。
「(前略)ウィーナーたちは、人間や生物の目的論的現象の中に、フィードバックによる制御が潜んでいることを見出し、フードバック機構によって実現される「目的論的機械論」という新しい科学的探究領域を示そうとした。同時にマカロックとピッツは、精神現象をつくりだすニューロン・ネットワークの中に形式論理学が潜んでいることを見出し、フォン・ノイマンのデジタルコンピュータによって具現化される「情報処理的機械論」に光を当てることになった。つまり両者とも、新しいタイプの人間・生物機械論の可能性に、新時代の夢を見たのである。」
「彼らの人間・社会機械論の根底にあったのは、「適切な制御」という考え方である。機械であれば制御できるはずであり、それによってより良い状態をつくりだすことができるはずである。」
 サイバネティクスは、このようにしてコンピュータなどITを推進する源流となりましたが、実はその中には二つの潮流があったようです。次のように書いてありました。
「(前略)サイバネティクスは、生き延びるための制御の科学であり、生きるための学問である。制御と言っても、全体の管理者としての視点から、世界を制御しようと企てているのではない。現実の不確かさに対処するため、制御できるものを制御して、生き延びようとするのである。制御できない水の流れに、制御できる舵によって立ち向かっていく方法がサイバネティクスなのである。
 ここにウィーナーとフォン・ノイマンの世界観の違いが表れている。両者はサイバネティクスという学問をつくり、その発展を支えた二本柱ではあるが、この二人の世界観は著しい対象をなしている。
 先述のようにフォン・ノイマンは、淡々と進行する論理の構築物として世界を捉えた。イメージは論理マシンとコンピュータである。フォン・ノイマンにとっての世界とは、極論すれば一つの巨大なコンピュータであり、あらゆる現象はその機械的処理である。そしてその仕組みに精通することが、すなわち世界の制御可能性を高める方法である。
 それに対してウィーナーは、世界の不確かさに目を向ける。ウィーナーにとって世界とは、理路整然としたものではない。不完全で、非合理的でさえあり、それに立ち向かってくために確率論がある。(中略)
 それだけではない。確率はつねに全体分の何かであるが、その全体を見通すことができないのが我々の世界である。(中略)そこにあるのは、世界のすべてを見通す一つの視点ではなく、それぞれが置かれた場において何とか生き延びようと苦闘する、個々の行為者の視点である。」
    *
 ……このフォン・ノイマンさん側の流れを継いでいるのが、現在よく知られているサイバネティクスで、私自身にもなじみがあるものだったのですが、実は創始者のもう一人、ウィーナーさんは、サイバネティクスはもっと複雑な(生命的な)ものを目指すべきだと考えていたようです。その流れを継いでいるのが、ベイトソンさんやフェルスターさんで、それぞれ次のように書いてありました。
「(前略)システムは、その外部環境から切断して見たときに初めて制御されるシステムとして見えるのであって、システムとその環境という、より大きな関係性の全体を眺めれば、それ自体が大きな循環するシステムとして見えてくる。だからベイトソンは、サイバネティクスをシステムの制御ではなく、循環するシステムの理解をめざす学問として位置づけ直す。」
「(前略)彼(注:フェルスター)にとって記憶とは、それ単体として固定されたデータなどではなく、想起や再学習と不可分な、ダイナミックな認知のプロセスとして存在するものである。したがって機械と人間を同じ枠組みで考えることはできない。機械における情報処理と、人間や生物におけるプロセスとしての認知を対比させるこうしたフェルスターの思想は、本書が主題とする科学としての人間・非機械論へとつながっていくことになる。」
   *
 本書では、フォン・ノイマンさんの流れとなる従来のサイバネティクスを「ファースト・オーダー」、フェルスターさんたちが唱える新しいサイバネティクスを「セカンド・オーダー」として、「セカンド・オーダー」の人間非機械論が詳しく紹介されていました。
 従来のサイバネティクスが、「一元的・他律システム・客観主義」なのに対して、新しいサイバネティクスは、「多元的・自律システム・構成主義」だそうです。
 そして人間非機械論の核となる理論の一つに、次のような「オートポイエーシス」があるそうです。
「オートポイエティック・マシンとは、構成素の産出(変形および破壊)プロセスのネットワークとして組織化された(単位体として規定された)機械である。このネットワークがその構成素を産出する。それら構成素は、(i)相互作用と変形を通じて、それらを産出したプロセス(関係)のネットワークを絶えず再生産し実現する。(ii)同様に構成素は、空間内の具体的な単位体としてのそれ(機械)の構成素となる。その空間内において、それら(構成素)は当該のネットワークが実現する位相的領域を特定することによって存在する。」
 オートポイエーシスには「自律性、自己同一性、単位体であること、入出力の不在」という性質があるそうで、その事例として「細胞(代謝ネットワークによって細胞膜が形成・維持されるとともに、その細胞膜によって代謝ネットワークが形成・維持されている)」があげられていました。
 新しいサイバネティクスの構造主義とは、「システムの構造は変化するが、オートポイエーシスの構成(組織化)は不変」というもので、例えば、大腸菌は主な栄養源のグルコースが不足すると、代わりにラクトースを利用するようになりますが、これは「システムの構造を変化させて」生き延びているのです。次のようにも書いてありました。
「(前略)オートポイエーシス論は、生物のもっとも基本的な単位である細胞レベルから、生物は機械とは異なる存在であることを明確にする。人間・生物機械論の立場をとるコンピューティング・パラダイムに対して、人間・生物非機械論としての、サイバネティック・パラダイムが、ここに確立されたことになる。」
 なお、「入出力は不在」ですが、環境と相互作用はしています。
また進化を通じて変化していくのは、「システムの構造」で、生命システムである限り、オートポイエーシスという構成はその間ずっと維持されているそうです。
 ……この「新しいサイバネティクス」は、確かに従来のサイバネティクスよりも「生命」に近いものになっている気がしましたが……かなり哲学的で、「従来のサイバネティクス」より分かりにくいと感じてしまいました……やっぱりコンピュータよりも生命の方が、ずっと複雑で分かりにくい機構だからでしょうか?
 それでも、コンピュータやIT技術の進展のおかげで、ようやく「複雑系」を研究できる状態になっている現在だからこそ、この「新しいサイバネティクス」を研究できる環境も整いつつあるような気がします。そして「不確かな世界を生き延びるための生命の科学」としてのサイバネティクスの「セカンド・オーダー」研究を進展させていくことで、情報・生命・社会の未来を、より良い方向へ切り拓いていけるのかもしれません。
『人間非機械論 サイバネティクスが開く未来』……とても勉強になり、考えさせられる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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