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第1部 本

生物・進化

超遺伝子(藤原晴彦)

『超遺伝子(スーパージーン) (光文社新書 1257)』2023/5/17
藤原 晴彦 (著)


(感想)
 なんだかすごい働きをしそうな「超遺伝子(スーパージーン)」のことを詳しく解説してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに
第1章|スーパージーン物語のはじまり
第2章|スーパージーンに迫るための基礎知識
第3章|天才たちによるスーパージーンの予測
第4章|加速するスーパージーン研究
第5章|スーパージーンは生き物の不思議の源
第6章|スーパージーンはヒトにもあるか
第7章|アゲハの擬態とスーパージーン
第8章|スーパージーン物語の過去・現在・未来
おわりに
   *
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「(前略)スーパージーンは、1つの遺伝子ではとても成し遂げられないような、複雑な現象を引き起こすことができるものと考えられる。」
 ……なんだか謎めいています。
 そんなスーパージーン研究がどうして始まったのかについては「第1章|スーパージーン物語のはじまり」で知ることができました。そもそもは蝶などの「擬態」の不思議から始まったようです。
「ナガサキアゲハやシロオビアゲハでは、擬態型メス、非擬態型メス、オスとそれぞれ模様は異なるが、その模様はどの世代でもいつも同じである。(中略)
 これらの蝶ではそのような中間型は決して現れず、擬態に必要な個々の特徴(形質と呼ぶ)は混ざることなく次世代に伝わっていく。」
「同じ種の中に全く異なる性質のものが決して交わることなく後世へ伝わっていく。これがスーパージーンの不思議なのである。」
 そして「スーパージーン」の正体は……かなり明らかになりつつはあるものの、まだ完全に解明されてはいないようでした。「第8章|スーパージーン物語の過去・現在・未来」には、次のように書いてあります。
「ここで、ゲノム解析などで明らかになったスーパージーンの構造をまとめよう。
1)同じ種に複数の形質のタイプがある(例えば擬態するメスとしないメス:種内多型)場合に、ある染色体の特定の位置に複数の遺伝子がスーパージーンとして固まって存在する。
2)相同染色体間で比較すると、スーパージーン領域のDNA配列が大きく異なっていて、それぞれの配列(領域)が複数のタイプの形質に対応していると考えられる(残念ながら、現時点では各遺伝子の機能が明らかになったスーパージーンはほとんどない。)
3)多くの場合、相同染色体の間に逆位が生じることで組み換えが抑制され、長い進化の過程で突然変異が蓄積したため、配列が大きく異なったと思われる。」
   *
 そしてこのスーパージーンがヒトにもあるのか、と言うと……実はこれまであまり探索自体されてこなかったようですが、性にまつわる姿・形・行動などを変えずに子孫に伝える性染色体が、スーパージーンだと考えられているようです。
 ……本書を読んで、スーパージーンの不思議さに驚きました。……というよりも「擬態」の遺伝の仕方がとても不思議です。擬態は同じ環境にいる他の毒蝶を真似することで生存率を上げるという仕組みなので、羽の模様だけでなく飛び方なども真似するのですが……これは「複数の遺伝子」がセットの状態で遺伝的に引き継がれなければならないことを意味しています。それなのになぜ「中間型」のような半端な擬態がほとんどないのかが本当に不思議。本書では、遺伝子の「逆位」が生じることで「組み換えが抑制」されると書いてありましたが……そもそもなぜ「逆位」が「組み換えの抑制」を起こすのかが分かりませんでした……。
 それでも……やっぱり遺伝子はとても面白いし、生き物の生存戦略が化学的に説明できることを知ると、なんだかわくわくしてしまいます。
 そういう意味でとても面白かったのが、「第7章|アゲハの擬態とスーパージーン」。
 ここでは、幼虫のときには鳥の糞に擬態し、さらに大きくなると柑橘系の葉に擬態するとか、サナギになると緑か茶色になるアゲハ蝶がいることが紹介されていました。幼虫のときにはホルモンが擬態に関係していて、この変化は遺伝子の命令で自動的に行われるようです。
 また「擬態」というと、環境に合わせて体色を変化させるカメレオンなども思い浮かべてしまいますが、カメレオンの擬態と蝶の擬態は、次のように仕組みがまったく違っているそうです。
「ヒラメやカメレオンのような動物(脊椎動物)では、色素細胞という細胞が表皮の近くにあり、細胞自体が色の調節を行っている。目で見た周囲の背景が脳で処理されて、神経系を通じて直接末端の細胞へ指令が伝わり、背景に合わせて色を変化させているのだ。(中略)
 一方、昆虫の体色は細胞そのものではなく、細胞の外側にあるタンパク質やキチンなどの物質からなる「クチクラ」が主に色づく。(中略)
 重要なのは、ヒラメやカメレオンでは着色に遺伝子は直接関係しないが、アゲハでは遺伝子が体色を生み出している点だ。遺伝子からできたさまざまな酵素がメラニンや色素を作っているので、遺伝子が働かない限り色はつかない。」
 ……へえー、そんなことまで分かっているんですね!
 生き物の複雑で不思議な現象にスーパージーンが関わっていることが、最新の研究で明らかになりつつあることを紹介してくれる本でした。
 ちなみに「ジーンとスーパージーンの違い」は次の通りだそうです。
・ジーン(遺伝子)
1)1個のジーンは、1つのタンパク質の情報が含まれる
2)個々のタンパク質は、細胞や体の中で酵素や体の成分になるなど、単一の働きを持つ
3)ヒトのゲノムの中には2万個ほどの遺伝子が存在する
・スーパージーン(超遺伝子)
1)複数のジーンが集まって、擬態などの複雑な現象を引き起こす
2)複雑な現象が毎世代起こるためには、スーパージーンの構造は変化してはならない
3)そのためには複数のジーンは染色体の1カ所に集まる必要がある
4)逆位によってスーパージーン構造が維持される(ことが多い)
   *
 本書では、スーパージーンだけでなく、ダーウィン進化理論やメンデルの突然変異など、生物・進化の基礎知識についても概説があるので、とても参考になりました。とても興味津々な内容が多いので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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