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第1部 本

教育(学習)読書

幻のユキヒョウ(ユキヒョウ姉妹)

『幻のユキヒョウ 双子姉妹の標高4000m冒険記』2023/4/16
ユキヒョウ姉妹(木下こづえ・木下さとみ) (著)


(感想)
 世界でいちばん高いところに暮らしているネコ科動物のユキヒョウ。ヒマラヤ山脈などの、人が足を踏み入れるのも困難な場所にひっそりと暮らしているため「幻の動物」と呼ばれ、生態もいまだ謎が多いそうです。
 そのユキヒョウの調査・研究や保全活動に挑む双子の姉妹(一人は研究者、一人はコピーライター)が、モンゴル、インド、ネパールにキルギス……標高4000メートル、シャワーもトイレも電気もない場所で、ひたすらユキヒョウの足跡を追っていきます。
 ユキヒョウとはどんな動物なのか? 生息地で暮らす人々にはどんな文化があるのか? ユキヒョウを「まもる」とはどういうことなのか? ユキヒョウの生きる世界を、リアルに見せてくれる本で、冒頭には貴重な写真も多数、フルカラーで掲載されています(本文中にも写真やイラストがたくさんあります)。
「はじめに」には、本書の概要が次のように紹介されていました。
「動物研究者(つまり、フィールドワーカー)になった双子の姉・こづえと、コピーライター/CMプランナー(つまりは、オフィスワーカー)になった双子の妹・さとみのデコボコ双子姉妹が、モンゴル、インド、ネパール、キルギスのユキヒョウ生息地に挑む。(中略)
 ユキヒョウを通して知った、野生動物がくらす世界、そしてそこで生きる人々の暮らし、それはどこか遠く離れた異世界ではなく、今まさに、同じ時間が流れている世界、本書は、体力も能力も感性もほぼ同じ双子が、それぞれに違った職業と視点でユキヒョウの世界に触れ、10年の月日をかけて共に成長していった物語。ぜひ三つ子になった気分で、野生のユキヒョウがくらす世界を一緒に旅してみて欲しい。」
   *
 そして「第1章 モンゴル編」には、ユキヒョウのことが次のように説明されていました(本書内ではもっと詳しく説明されています)。
「ユキヒョウとは、一体どんな動物なのか。ライオン、トラ、ヒョウ、ジャガーと同じくヒョウ族(いわゆる大型ネコ科動物)に分類される動物である。名前に“ヒョウ”とついているためややこしいのだが、アムールヒョウやペルシャヒョウのようにヒョウの仲間(亜種)ではなく、別種の動物である。現在は、大型ネコ科動物のなかでユキヒョウに最も遺伝的に近い種(近縁種)はトラとされている。」
 そして、この本の特徴は、「ユキヒョウのことを知ってもらいたい、フィールドと人々を繋ぎたい、それをユキヒョウの保全活動に発展させたい」という二人が、プロジェクトの顔として「ユキヒョウさん」というキャラクター(イラストレーターは馬込博明さん)を誕生させたという点にもあります。この「ユキヒョウさん」……ほのぼのした顔つきをしていて、めちゃくちゃ可愛いです。このようなキャラクターを作ることや、クラウドファンディングで資金を集めることなどは、コピーライターの妹さんの力を感じさせてくれます。
 もちろん動物研究者のお姉さんの方も、めちゃくちゃ真剣にユキヒョウ研究に邁進しています。
 それにしても……ユキヒョウがいるのは標高4000メートルもの高地なので、そのフィールドワークは半端なく大変! 「第1章 モンゴル編」でも、移動のジープの天井にクッションが付いているのは、ごつごつした岩場を走るとき、ものすごく揺れて頭が天井に打ち付けられるから(!)などという過酷な状況が描かれていて、うわー大変なんだなー……と思いながら読んでいたのですが、これはほんの序の口、なんと第2章以降、どんどん苛酷さが増していくのでした……。
「第2章 インド・ラダック編」では、次の計画に参加しています。
「インド北部、標高3500メートルに広がるラダック地方、ユキヒョウの貴重な生息地のひとつだが、ユキヒョウの棲むエリアと人々の棲むエリアが重なっており、そこでは、ユキヒョウが家畜を襲う被害が頻発しているという。そこで、家畜被害対策のための柵を設置し、さらにそのプロジェクト自体をエコツーリズム化し、活動を維持したい、というのが、現地の保全団体とともに秋山さんが進めようとしていた計画だった。」
 ここでも到着早々、猛烈な頭痛で高山病に。横になりたかったそうですが、「絶対に寝てはダメ」なのだとか! 寝たら呼吸が浅くなって酸欠になりやすく症状が悪化するので、ひたすら紅茶を飲んで喋っていたほうがいい、と言われて、頑張って、そうしていたそうです。
 ここでは、本当に民家のすぐそばにユキヒョウが! ……いるだけでなく、家畜や犬を襲っているのです。
ユキヒョウに襲われた犬の死骸を見て双子は衝撃を受けましたが、農家の人たちは取り乱すこともなく団欒を続けていたそうで、次のように書いてありました。
「(前略)それが不思議な感じがしたけれど、ここでは人も犬もユキヒョウも、必死に生きていて、被害者とか加害者とかではなく、生きものとして生死を分かちあっているのだと感じた。(中略)
 生き物たちは、食物連鎖のなかで生と死を重ねながら逞しく生きている。わかってはいたが、理解はできていなかった。そんなヒリヒリするようなリアルな姿を見せられて、「自然との共生」という言葉の本当の意味を教えられた気がした。」
 ……うーん……それが本当の「自然との共生」なんですね……。
 そして「第3章 ネパール編」では……
「今回の私のミッションは、ユキヒョウの糞の採取方法を現地の市民サイエンティストたちに教えること。回収した糞のDNAやホルモン分析から、ユキヒョウの食性やストレス状態、発情・妊娠した個体がとこにいたのかなどを調べることで、ユキヒョウの生態をより詳しく知ることができる。」
 ……ということでしたが、ここでも落ちたら死ぬしかないプロペラ機で移動するとか、他に方法がなくて夜まで歩き通して両足の小指のツメが完全になくなったとか、糞の分析用の場所が確保されておらず現地で場所や備品の確保に奔走とか……とにかく苛酷だったようです。
 うわー凄い。これ以上苛酷な旅なんて、もうないわ……と思っていたのに、なんと「第4章 キルギス編」では、キルギス語が分からず、ボディランゲージでコミュニケーションをとるとか、設置しておいたカメラに密猟者が写っていただけでなく、その人にヒッチハイクされ1時間一緒にドライブした(その後、警察に事情を話した)など、別の意味での過酷な旅だったという……外国の辺境旅は、本当に大変ですね……(涙)。
 それでも彼女たちは、どの旅でもきちんと成果を上げているので、本当に偉い!
 しかもキルギスでのJICAプロジェクトの原口さんと一緒に、現地の特産である羊毛を使った「ユキヒョウさん」をモチーフにしたグッズを作って、現地の人材育成と組織づくりを支援してもいるのです。「ユキヒョウさん」の羊毛のぬいぐるみは本当に可愛いし、「ユキヒョウさん」の顔を描いた瓶入りの白いハチミツもとても美味しそう(どちらも好評のようです)。
 ユキヒョウの研究・保全だけでなく、現地の人々の暮らしも支援することで、現地の環境を守っていこうと奮闘する双子姉妹の冒険記でした。とても面白くて読み応えがあるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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