ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

生物・進化

プランタ・サピエンス(カルボ)

『プランタ・サピエンス 知的生命体としての植物』2023/3/29
パコ・カルボ (著), ナタリー・ローレンス (著), 山田 美明 (翻訳)


(感想)
 世界で唯一植物の知性を専門に研究する「MINT研究所(ミニマル・インテリジェンス・ラボ)」の代表研究者で科学哲学教授のカルボさんたちが、植物が驚くほど高い知性を持ち、自分が置かれた状況を把握して、未来を予測し、他の生物とコミュニケーションすら取っていることを教えてくれる本です。
 本書の冒頭では、触れると葉を閉じる「オジギソウ」が、麻酔をかけると葉を閉じなくなることや、昆虫を捕まえるハエトリグサにも麻酔が効くことが、次のように紹介されていました。
「(前略)植物の表面に電極をとりつけ、罠の周囲の興奮しやすい細胞の電気的活動を計測することにした。そして実演の際にはまず、私が葉に触れるたびに、その電気信号が電圧の急上昇を示すところを見せた。これは、心電図が患者の鼓動を示すのと同じように、植物内部の生命が活動している明らかな証拠である。それから一時間後、私は観衆の一人に、ハエトリグサの罠に触れさせてみた。だが植物はまったく動くことなくじっとしている。電気信号も水平のままだ。(中略)
 麻酔をかけられると目覚ましい能力を失うのは、オジギソウやハエトリグサだけではない。どんな植物でも麻酔下にあると、いましていることを止める。葉の向きを変えることも、茎を曲げることも、光合成をすることもなくなる。種子でさえ、発芽をやめる。」
 ……植物も、私たちと同じように電気信号で生きているので、なんと麻酔が効くのだそうです! これは驚きでした。次のようにも書いてありました。
「オジギソウをふくめ植物は、ニューロンに沿って移動する活動電位と同じような電気信号を使い、イオン移動を利用し、体内の比較的遠いところまでそれを届けられる細胞を備えている。」
 ……植物はその場から動けませんが、どこから光が来るかなどの情報を統合して、成長や発達のパターンを制御しているそうです。……確かに植物は、いつの間にか、いつも光が多い方に向かって成長していますし、光に合わせて葉や花の向きを変えています。さらに次のようにも……。
「(前略)そう考えると植物は、光合成をしながら成り行きに任せて生きているだけの受動的な生物ではない。先を見越して周囲の環境とかかわり合っている。」
 ……なるほど。
 そして植物が「能動的に動く」ことを私たちにはっきり見せてくれるのが、「つる植物」。私も小学生の頃、夏休みの宿題で朝顔の観察をしましたが、観察中に一番わくわくしたのは「つる」が出てきてこと! くるくる巻きながら、毎日どんどん伸びていくのを見るのが楽しかったです。しかも「つる」の巻きの途中に、突然、「逆方向」になっているものを見つけた時には、「えっ?」と驚いて、なぜ? と思うと同時に、その瞬間を目撃できなかったことに、がっかりしてしまったことを覚えています。
 この本の中では、進化論で有名なダーウィンさんが、病気になって数週間病床を離れられなくなったとき、窓台に置かれた植木鉢のキュウリが成長していくのを見たときのエピソードが紹介されていました。ダーウィンさんはその繊細な巻きひげが空間を探索する様子をじっくり観察して、「つる植物は硬い茎を持たないでいかに光を手に入れられるか、という進化上の問題を「つる」で解決している」という研究論文まで発表しています。さすがはダーウィンさんですね!
 この「つる」の動きが、植物内部でどのように起こっているのかも、次のように解説されていました。
「植物の先端の巻きひげと垂直な茎の間には「運動帯」があり、そこで円を描くような動き(ダーウィンの言う回旋運動)など、運動の性質を精緻に制御している。回旋運動は、パターン化された自動運転などではない。植物は、巻きひげの動きを調節できる。この運動帯の細胞は、油圧ポンプのような役目を担い、茎の片側を拡張させたり収縮させたりする。荷電粒子が波のようなパターンを描きながら細胞間を動きまわると、それに伴って水分が移動し、細胞の膨張具合が変わる。これにより、茎の両側面の相対的な長さが伸びたり縮んだりして、巻きひげを動かすのである。」
 ……へえー、そうだったんだー。
 この他にも、植物は他の生物と、香り(化学物質)で影響を与え合っているとか、植物にも体内時計や概日リズムもあるとか、植物の体内では根や葉などが絶えず通信をしているとか、興味深い話がいっぱいでした。
 でも「植物が知性を持っている」という考え方には批判も多いようで、カルボさんたちは、さまざまな偏見と闘っているようです。
 確かに……いきなり植物に知性があると言われても……本当かなー、なんか思い込みが激しいだけなんじゃないの? と疑いたくなる気持ちも分かるような気がします。
 例えば、この本の中で紹介されていた「植物の学習能力」の例として、「オジギソウはあまりに頻繁につつかれると、やがて反応しなくなる」ことがあげられていましたが、これは「学習した」からではなく、「反応するための化学物質が枯渇してしまった」からとも考えられるんじゃないかなーと思ってしまいました。
 その一方で、この後に紹介されていた「青い光がくる方向を学習したエンドウマメに、「青い光+風」を学習させたら、青い光なしにも「風」がくる方向に茎をのばすようになった」という実験や、「「強い光+豊かな土壌」を学習させたイチゴと、「弱い光+豊かな土壌」を学習させたイチゴは、その後、土壌の豊かさに変わりはなくても、それぞれ「強い光」、「弱い光」の方に根をのばすようになった」という実験は、確かに、植物に「学習能力」や「環境に合わせて必要なものを見つける方法を学ぶ能力」があることを示しているように思います。
 考えてみれば、「科学」というのは、研究上の問題を指摘し合うことで、より正しい方向へと発展してきた(いる)のですから、むしろ批判は歓迎すべきことのようにも思います。
 大事なことは、明らかにしたいこと(ここでは植物が知性を持っていること)を、いかに科学的に証明するか、なのではないでしょうか。
 そして植物と動物は、ある程度、同じような構造を持っていて、電気信号も使っているのですから、それを利用して「科学的に証明」していける状況にもあると思います。本書にも、次のように書いてありました。
「(前略)人間や動物の神経系のリアルタイム画像を取得するために利用される磁気共鳴映像法(MRI)やポジトロン放出断層撮影(PET)を応用すれば、植物の維管束系の状態変化を把握できる。」
 ……これを活用して、さまざまな実験をすることで、「植物の知性」を明らかにしていけるのではないでしょうか。
 それにしても……植物と動物は、意外に似ているということを知って、驚くとともに、納得もしてしまいました。次のようにも書いてありました。
・「神経細胞を持たない植物では、電気信号が維管束系を伝って移動する。維管束系とは、根から茎や幹へと伸びる管の束で形成された輸送ネットワークである。これは、二種類の導管で構成されている。水を上部へ運ぶ木部と、糖などの溶解物質を運ぶ師部である。この維管束系が、動物の神経系と同じように、短距離・長距離を問わず電気情報を運ぶ幹線道路の役割を果たしている。(中略)
 植物が持つこの電気回路は、動物の神経系と同じように、電気発火を起こすさまざまな事象により作動する。その一つが活動電位である。」
・「植物と動物は、共通の祖先を持ち、類似の構造を数多く備え、遺伝子を発現させる同じ仕組みを持ち、同様の代謝機能を備えているのと同じように、ある程度同じ言語を使って情報を伝えている。」
 ……興味津々なので、今後の研究にも期待したいと思います。
 植物は、私たちが思っているよりもはるかに活発に、規則正しく、そして「知的に」生きている……『プランタ・サピエンス 知的生命体としての植物』を教えてくれる本でした。面白くて勉強にもなるので、生物が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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