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第1部 本

数学・統計・物理

宇宙検閲官仮説(真貝寿明)

『宇宙検閲官仮説 「裸の特異点」は隠されるか (ブルーバックス) 』2023/2/16
真貝 寿明 (著)


(感想)
 すべての物理法則が破綻する「特異点」は、ふつうの宇宙であれば必ず発生する……物理学者にとってショッキングなこの事実を証明したのが、ロジャー・ペンローズの「特異点定理」。でも彼は、一方ではこんな「仮説」も提唱しました……本当に厄介な「裸の特異点」は、宇宙検閲官がブラックホールで覆い隠してくれている、だからきっと大丈夫! ……はたしてこの仮説は、定理となりうるのか、それとも願望にすぎないのか?
 一般相対性理論や特異点定理、そして宇宙検閲官仮説、さらに宇宙創成の謎解きにつながる数々の最先端の理論についても解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 一般相対性理論とは(一般相対性理論の説明)
第2章 アインシュタイン方程式の解(一般相対性理論が導くブラックホールと熱膨張の説明)
第3章 特異点定理(特異点定理の原論文の解説)
第4章 宇宙検閲官仮説
第5章 特異点定理と宇宙検閲官仮説の副産物(物理学の進展の紹介)
   *
「はじめに」には次のように書いてありました。
「(前略)宇宙検閲官は、宇宙でいったい何を取り締まっているのでしょうか。それは「特異点」です。特異点とは、あらゆる物理法則が破綻をきたしてしまう「無限大」を導く点です。物理的には「あってはならない」不適切な場所なのです。」
 ……へー、そうなんだ……(ちなみにこの「宇宙検閲官」は現在のところ、まだ仮説にすぎないそうです)。
 この本は「一般相対性理論」とか「特異点定理」とか、私には難しくてわけの分からない内容が多くて、読むのが大変でした(というか読めたような気がしません……涙)。でも、第1章から第3章までは、一般相対性理論やブラックホールなどの解説になっているので、ここをじっくり読むと、物理学や数学の知識を充実させられると思います(たぶん、きっと)。
 そして第4章からは、いよいよ宇宙検閲官仮説の話。次のようなことが書いてありました。
「もし、時空特異点が生じても、そればブラックホール地平面の内側の話であれば、外側の世界には影響が出ません。しかし、アインシュタイン方程式の解として得られる時空では、特異点があって、しかも地平面が存在しない解も「数学的に」得られているのです。」
「ペンローズは、自然界には特異点の出現を防ぐメカニズムがあるにちがいない。裸の特異点の露出は宇宙検閲官がいて禁止するのだ、と予想しました。」
「ペンローズの提案を短くまとめると、弱い宇宙検閲官仮説は「ブラックホールの外側にいる観測者は時空特異点の影響を受けない」というもので、強い宇宙検閲官仮説は、より強く、「ブラックホールの内部であっても、その特異点に到達するまでは特異点の影響を受けない」とするものです。」
   *
 そして第5章では、ブラックホールに関するさまざまな定理について知ることができました。
 例えば「ブラックホールの表面積定理(ホーキング、1971年)」については……
「地平面上にもその外側にも特異点がなく、ひとたび事象の地平面ができれば(ブラックホールが形成されれば)、光的エネルギー条件がみたされるもとでは、事象の地平面の表面積は、決して減少しない。」
 また「正エネルギー定理(シェーンとヤウ、1979年)(ウィッテン、1981年)」は……
「アインシュタイン方程式をみたし、漸近的に平坦な時空で、物質が優勢エネルギー条件を満たすのならば、ADMエネルギーは正またはゼロである。ADMエネルギーがゼロとなるのは、ミンコフスキー時空であることと等価である。」
 ……という定理だそうですが、ここで、なんのこっちゃ、と困惑していたら、次のような解説がありました。
「つまり、この定理は、時空のエネルギーの下限値はゼロであり、その最低状態は、平坦な時空であることを述べています。エネルギー的にミンコフスキー時空が一番安定であることを示したことになり、曲がった時空を取り扱う一般相対性理論が理論として正当性をもつことを支持します。」
 ……なるほど……こう言われると何となく、少しは分かるような気がするような、しないような、しないようなしないような……(苦笑)。
 この本では、数学者や物理学者のみなさんが、宇宙のさまざまな謎(「宇宙のあらゆる星が万有引力で引き合っているならば宇宙が不安定になるはず」とか、「電荷を持った2つの物体の1つが電荷を失うと、その瞬間にクーロン力がゼロになる。(どんなに物体が離れていても瞬間的に力が変化することになるので、天文的な距離があっても力が一瞬で伝わることになる)」)とかに、いかに挑んできたかを知ることが出来ます。
 そして現在でも挑み続けているのです。
 例えばブラックホールの性質(事象の地平面の表面積は、決して減少しない)には、熱力学のエントロピー(減少することなく一方的に大きくなる物理量)に通じるものがあり、それが現在は「ブラックホール熱力学」へと発展しているそうです。
 ……このような努力があったことで、私たちのいる宇宙の時空のことが、少しずつ明らかになってきているんですね。
 それにしても……ゼロとか無限とか、光速とか絶対零度とか……「厳密に考える」と、とてつもなく面倒な話になるんですね……。
ところで、ブラックホールに「裸の特異点」があることはめったにないそうですが、もしも「宇宙検閲官」がついうっかり見逃してしまったら何が起こるのでしょう?
 もしかしたらそこから「ホワイトホール」になって、虚数世界的な方向(?)へと一気に「ビックバン」を起こすのかも? 私たちの世界もそうやって、かつて宇宙検閲官が検閲漏れした「不運」な世界を犠牲にしてビッグバンしてきたのかも? なーんてSF的な妄想を抱いてしまいました(もちろん、このような馬鹿な妄想は、本書の中では示唆すらされていませんが……)。
 えーと……「一般相対性理論」、「特異点定理」そして「宇宙検閲官」、さらにそれらの研究最前線について解説してくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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