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第1部 本

科学

自由と進化(ベジャン)

『自由と進化――コンストラクタル法則による自然・社会・科学の階層制』2022/12/23
エイドリアン・ベジャン (著), 柴田 裕之 (翻訳), 木村 繁男 (解説)


(感想)
 自然界の力の流れ、スケールメリットの優位性、階層制と不平等が生じる理由、複雑性の捉え方、多様性の広がりについてなど、諸領域に適用される「コンストラクタル法則」の理論的背景を解説しながら、「自由」と「進化」をキーワードに、未来に資する学問と科学のあり方を熱く論じている本で、主な内容は次の通りです。
第1章 自然と力
第2章 規模の経済
第3章 階層制
第4章 不平等
第5章 社会的構成とイノベーション
第6章 複雑性
第7章 学問分野/規律
第8章 多様性
第9章 進化
第10章 収穫逓減
第11章 科学と自由
   *
「序」には、次のように書いてありました。
「本書の目的は、進化の予測理論を提示することにある。物理学における自由の概念と進化の概念をしっかりと確立するのだ。私が選んだアプローチは、自由を見解ではなく物理的現象とする、というものだ。」
「自由は、他の物理的なもの(つまり自然の一部)と同様、測定可能だ。自由とは、系の配置の中で自由に変化できる物理的な特徴がどれだけあるかを測定した結果だ。変化する能力が、効率や力、強固さ、弾性、寿命といった、系の性能の他の尺度に与える影響もまた、測定することができる。」
「(前略)自然の系は、いったん動き出すと、より楽に流れるために絶えず自らの配置を進化させる。(中略)系は進化し、発達し、より効率的になるにつれ、より複雑になる。それはなぜか? 合わさり、いっしょに動く(流れる)ほうが、個別に動くよりも必要とする力が少ないからだ。これが「規模の経済」の物理的基盤であり、その最も明白な表れが社会的構成だ。」
「(前略)物理的な動き(流れ)と経済は表裏一体であり、どちらもおなじ階層的な流動構造で説明がつく」
「自由の下での進化には、複雑性、多様性、階層性、大きさ、自由選択といった、目にみえる特徴のいっさいが伴う。進化は、その未来も過去も予測できる。」
 また木村繁男さんによる「解説」には、本書の位置づけと概要が、次のように書いてありました。
「本書は、コンストラクタル法則の提唱者エイドリアン・ベジャン教授(デューク大学)が同法則について解説した、一般向け書籍の第三弾である。
 この新たな物理法則については、これまでベジャンが書いた『流れとかたち』『流れといのち』の二冊で詳しく説明されており、(中略)これが完結篇という位置づけになる。」
「ベジャンがコンストラクタル法則を最初に論文で発表したのは、一九九六年のこと。この法則は、以下のような言葉で定義される。
   有限系の流動系(微小な一粒子でも亜原子粒子でもない)が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、流れるものにより容易で大きなアクセスを提供するように自由に進化しなくてはならない。
 これは簡単に言うと、「樹木、河川、動物の身体構造、稲妻、スポーツの科学、社会の階層性、経済、グローバル化、空港施設や道路網、メディア、文化、教育など――生物か無生物を問わず、すべての形は、自由を与えられれば、よりよく流れる形に進化する」という法則である。そしてこれは、物理の第一原理なのだ。」
   *
 ……全体としては、「世の中の動きのほとんどは「川の流れ」のようなもので、物理学で予測できる」ということを、いろいろな事例・方法で論証しているように感じました。自然現象だけでなく、動物の身体構造、経済や社会の階層性まで物理で予測できる(!)ということに驚きを感じましたが……なんとなく納得できる部分もあり、新しい視点をもらえたような気がします。参考になったことのごく一部を紹介すると次のようなもの。
「第3章 階層制」から……
「流れや動きが見られる場所や、かつて流れていたものの痕跡が見られる場所には、必ず階層性が存在する。」
「宇宙全体が、相互連結した樹状の、流動する階層構造なのだ。」
「第4章 不平等」からは……
「富の分配は不均一であることが見込まれてしかるべきだ。なぜならそれは、生きた社会を流動するあらゆる流れの、進化する動きと密接に関係しているからだ。」
「経済、地球物理学的現象、生物の系、無生物の系のどれにおいても、基本的には、進化は同じ物理学の基盤の上で起こる。進化は、識別可能な時間方向の中で流動構造に起こるさまざまな変化の、一つの名前なのだ。」
「進化は物理学と経済学をまとめ、進化の物理的法則を地球上の社会子的構成と動きという現象にまで及ぼせる。不平等は自然である(つまり、物理的現象である)という事実には、西洋社会と資本主義の未来や、階級間の憎しみや戦争の回避にとって、幅広い意味合いがある。
 不平等が減れば、嫉妬や憎しみが減り、平和が増すかもしれないが、不平等をなくすことは不可能だ。」
「第5章 社会的構成とイノベーション」から……
「(前略)単一の人物の個々の行為を予測することはできない。(中略)だが、社会全体(巨視的なもの)は独自の行動をとり、それは予測可能なのだ。」
「人間の居住する領域におけるイノベーションという事象の拡がりは、不平等を制御する絶妙な方法だ。」
「イノベーションは、社会における進化の源泉なのだ。イノベーションを起こす人が歴史を作る。」
「第6章 複雑性」から……
「「理解する」とは、イメージの保存領域の密度をより高めて小さくし、検索をより高速にするように、頭の中でイメージを他のイメージと結びつけることを意味する。」
「第10章 収穫逓減」から……
「収穫逓減は、進化に伴う普遍的な現象だ。進化する流動の配置が成熟すればするほど、その全体的な流動アクセスの性能における改善は少なくなる。」
「進化は全体の性能における収穫逓減とともに多様性と複雑性も生じさせる。」
「第11章 科学と自由」から……
「人間の心が驚くべきなのは、それが観察結果を理論的に説明したいという衝動と、逆に、推論のために観察し、自然の観察結果を人間と家族と子孫に力を与えるために役立てたいという衝動を、本能として備えている点だ。」
「科学は自由に満ちているから自己修正できる。」
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 ……川が支流を集めるように階層化は自然に発生し、さらに効率的に流れるようになるように進化していく。あちこちで進化が止まっているように見えるのは、成熟すると「収穫逓減」が発生してしまうからで、それを打開するのがイノベーションだ……ということなのでしょう。こういうふうに要約すると……確かに社会や経済にも適用可能に思われます。
「物理は何でも説明できる」というか……世の中のなにもかもを「物理学で説明」しようとする物理学者の癖の強さをひしひしと感じさせられました(笑)。
 それでも経済や社会も、こんな風に「物理学で予測可能だ」と知ることは、硬くなりがちな頭(思考)の柔軟性を高めるのに、役立ちそうな気がします。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
 なお本書は『流れとかたち』『流れといのち』に続く3部作の完結篇とのことですが、解説者の方が「この三冊目は、これまでの研究内容がより直接的に説明されている」と書いているように、前作を読んでいなくても、それなりに理解できた気がします(かなり難しい内容なので、ホントに「それなりに」でしたが……)。以下の商品リンクでは、他の2作品も紹介していますので、興味のある方は、そちらも読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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