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第1部 本
ビジネス・その他
IoTと日本のアーキテクチャー戦略(柴田友厚)
『IoTと日本のアーキテクチャー戦略 (光文社新書)』2022/8/18
柴田 友厚 (著)
(感想)
日本の産業競争力を左右する鍵はアーキテクチャーとCPS(サイバーフィジカル・システム)にあることを、トヨタ、ダイキン、コマツなど、世界で成功する企業が実践している事例を通して分かりやすく解説してくれる本で、内容は次の通りです。
【序章】なぜアーキテクチャー戦略が重要なのか
【第1章】アーキテクチャー論はいかにして誕生し発展してきたのか
【第2章】なぜ日本でモジュール戦略は誤解されてきたのか
【第3章】車の脱炭素競争とアーキテクチャー戦略
【第4章】自動運転開発競争とアーキテクチャー戦略
【第5章】産業アーキテクチャー
【第6章】二兎を追う経営──ダイキン工業のモジュール戦略
【第7章】製造業のデジタル変容史
【終章】日本の正念場 サイバーとフィジカルの好循環へ
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「序章 なぜアーキテクチャー戦略が重要なのか」には、次のように書いてありました。
「(前略)産業ビジョンの中核に共通するものは、サイバーフィジカル・システム(Cyber Physical System,CPS)という概念である。我々が住む実空間(フィジカル空間)内の人間や機械に関する様々なデータを、IoT技術によりインターネットを中心とする仮想空間(サイバー空間)に吸い上げて、そこで蓄積したビッグデータをAI等で分析処理して、その結果を再度、フィジカルにフィードバックさせて有効活用するという構想だ。」
「アーキテクチャー思考」とは、あるべき全体の大きな見取り図をまず定めたうえで、個別要素の関係性を詰めていくというトップダウン的な思考プロセスで、その戦略の策定は次の二つを決めることだそうです。
1)システム全体の分割と分業の構造
2)インタフェースのルール
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実は日本企業には「現場思考(現場からの積み上げ)」で成功してきた体験があり、それはこのアーキテクチャー思考とは方向性が真逆なので、日本企業はアーキテクチャー思考がなじみにくいのだそうです。
「アーキテクチャー重視では、まず、中長期的な製品シリーズを構想する製品戦略が必要になる。そのためには、顧客ニーズの動向に関する知識、差別化要因のポイントなど市場動向に関する知見、さらに要素技術に関する技術知識など、市場と技術の両方に関する知識、経験、ノウハウが必要になる。そのうえで一連の製品シリーズ全体に通底する最大公約数としてのアーキテクチャーを策定し、その枠組みのもとで、個別機種を開発するというトップダウン的な流れを辿る。」
……現場できめ細かい調整をする方が、柔軟な対応ができるとも言えますが、それをしてしまうと「無駄な製品バリエーション」を増やしてしまうことになり、どんどん疲弊していってしまいます。今後の日本は、やはりアーキテクチャー化(モジュール化)戦略をとっていくべきなのでしょう。
個人的には、「第6章 二兎を追う経営──ダイキン工業のモジュール戦略」がとても参考になりました。
ダイキンは、コア事業である空調事業への資源集中と、グローバル化に成功している会社です。グローバル化とは……
「グローバル統合とは自社の製品やサービスをできるだけ共通化・標準化して、全世界に供給しようとする考え方であり、それによって企業はコストを削減し事業の効率化を図ることができる。」
……ということですが、現実には世界中のそれぞれの市場には独自のニーズ、政治規制、生活様式があり、グローバル統合には困難がつきまといます。このグローバル統合と逆を行くのが、各地域特有のニーズに応える方向性重視のローカル適応。国境を越えて事業を展開する多国籍企業は、グローバル統合とローカル適応のどこかに自社の戦略を位置づけることになるのですが……この二つは方向性が真逆なだけに、両立が困難なのです。
こんなとき有効になると思われるのが、「モジュール戦略」。モジュール戦略の活用で、統合と適応のジレンマをかなりの程度解決する道筋が見えてくるというのです。その概要とは……
「製品は、いかなる市場でも共通して使える共通基盤製品群と、市場ニーズへの独自対応が必要になる可変部品群の二つに大別できるために、それらを決められたインタフェースで連結して製品を作り上げるという考え方。」
「(前略)製品ライフサイクルの進展に応じて次第に産業が成熟すると、技術体系に関する知識も精緻なものになり予見可能性も高まり、当該製品をモジュール化するための良いデザイン・ルールが見出しやすくなる。そして良いデザイン・ルールができると、モジュール戦略であっても、顧客にとっての価値ある差別化を実現できるようになる。」
ダイキンは次のような方法で、設計思想のモジュール化を導入したそうです。
「グローバルに販売する空調機に関しては、まず世界中のニーズをできるだけつかんだうえで、その最大公約数的な機能と性能をベースモデルとして日本で策定し開発するのである。そしてベースモデルで対応できない海外の独自ニーズに対しては、ベースモデルの一部をアレンジして迅速に提供するというやり方で対応する。」
「(前略)ベースモデルとは、性能や機能が保証されたこれら機能のバリエーションを、適宜柔軟に組み替えることにより構成される。多様な組み合わせを柔軟に実現するために、各機能モジュール間のインタフェースを規定しており、それを順守することで。性能や機能が保証された機能モジュールの多様な組み合わせが容易に可能になるのである。ダイキンは2010年以降、モジュール化の原理を採用したこのような製品戦略の検討に着手した。」
そして日本のTIC(テクノロジー・イノベーションセンター)が全世界の技術動向と需要動向を睨み、ベースモデルの開発に加えて、空調機のコア技術開発にも責任を持ち、グローバル開発の司令塔としての役割を果たす一方で、TICの下の階層に、各国に拠点マザーR&Dを設置して、そこには特定のベースモデル開発とともに、特定の製品や機能に限定したマザー機能をもたせる、という組織構造に開発体制を転換したそうです。
なるほど……こんなふうにモジュール戦略をうまく使うと、世界中の各地域に存在する技術とノウハウを有効活用できるんですね。
日本企業は現場できめ細かく「すり合わせる」能力に優れていて、それで成功してきてもいますが、柴田さんも言うように「しかし今後一層高まる複雑性の壁を超えるためには、現場力の依存だけではもはや限界に近づきつつある。(中略)現場力への過剰依存を生み出す従来の思考枠組みから脱却し、アーキテクチャ重視へ切り替えることが必要になる」のだと思います。
アーキテクチャ戦略について、多くの事例を通して具体的に解説してくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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