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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

図説 日本の風(真木太一)

『図説 日本の風 ―人々の暮らしと関わる50の風―』2022/6/7
真木 太一 (編集)


(感想)
 地域の人々の生活に深く根付いた各地で吹く特徴的な「日本の風」の発生原因やメカニズム、地形や気候、人々の生活や産業にもたらす影響について、写真や図版を多用し、オールカラーでビジュアルに解説してくれる「日本の風」図鑑です。
 冒頭には日本地図があり、本書で掲載されている局地風の位置図がすべて掲載されていました。
「はじめに」には次のように書いてありました。
「第1部では、一般的な風の特性として、例えば、日本の季節風・台風・大小の風、カルマン渦、災害を起こす風を取り上げる。(中略)
 第2部では、日本の50の局地風を選定して地域別に記述・解説する。」
 第1部では、風の種類・特性に関する気象学の基礎が概説されます。
 ちなみに、これまで観測された日本の最大風速は、1)静岡県富士山:72.5m/s(1942年)で、2)高知県室戸岬、3)沖縄県宮古島、4)長崎県雲仙岳、5)滋賀県伊吹山と続きます……やっぱり強風が吹く場所として有名なところが多いですね……。
 そして第2部は、地域別の局地風の解説。見開き2ページまたは4ページで、詳しい解説とともに地形図や天気図、風景写真、防御策の写真などがあります。
 各項目の「ひかた風(雄武)」などのタイトルの脇には、その地の立体地形図があって理解を助けてくれますが、残念なことに、ここでは「ひかた風」の風向きなどが掲載されていません。冒頭の日本地図には掲載されているので、タイトルの下に小さくでもいいので、風向きが分かる地図も掲載して欲しかったなと感じました。(いちいち冒頭の地図を見ることになってしまったので……)。
 この第2部の冒頭には、日本各地の局地風の概要が次のように解説されていました。とても参考になったので、以下に紹介します。(本書内ではもっとずっと詳しく説明されていますが、あまりに長くなるので、ここでは簡潔にまとめて紹介します。)
 まず局地風は、大別すると次の二つになるそうです。
1)地形的加速で吹く風(山越えで吹き下ろす「おろし」、峡谷で吹く「出し」)
2)加熱・冷却で熱的に吹く風(昼夜温度差の海陸風、上下温度差の山谷風)
 そして各種の局地風としては、次のものがあります。
1)山谷風:山地とその周辺で吹く風で日変化する。日中から夕方に平野から山地に谷を吹き上がる谷風、夜間から早朝に山地から平野に谷を吹き下りる山風が、谷に平行に吹く。
2)海陸風:海岸地域で海面と陸地表面の温度差による気圧差で吹き、日中から夕方にかけて海から陸へ吹く風を海風、夜間から朝に陸から海へ吹く風を陸風と呼ぶ。
3)フェーン:山越えして吹き下ろす乾燥した高温の風。
4)ボラ:山脈の斜面を吹き降りる乾燥した低温の風で、フェーンの対語である。
5)おろし:山脈の山頂上層に逆転層があり、上層の大気との混合が妨げられている時に、下層の気流が山脈を越えて吹き降りる強風、山岳波である。
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 日本の局地風には「六甲おろし」のようにこれらの名前がついているものが多いので、上記の分類を覚えておくと理解しやすくなると思います。また、次のようにも書いてありました。
「日本の局地風を概観すると、山から海に向かって吹き出す風が卓越する。日本海・太平洋側に吹き出す風が多い。(中略)吹き出す季節は、日本海側の風は暖候期に日本海に低気圧がある時に多く、逆に太平洋側の風は寒冷期、特に冬の季節風時に多い。」
 ……なるほど。
 ただ……「ボラ」の項目に「フェーンの対語」と書いてありましたが、実際にはどちらも山からの吹き下ろし風で、判断しにくいような……と思っていたら、「45 赤城・榛名・筑波おろし」の中に次のように書いてありました。
「局地気象ではフェーンとボラは類似しており、現象が起こる地域は、卓越風が吹き出す山脈の風下山麓である。雲の発達は、卓越風が吹き出す山脈の風上側斜面と山頂域である。湿度は風が吹き出すと低下し乾燥する。降水は風上側斜面で発生する。フェーンは吹き出すと高温、ボラは吹き出すと低温になる違いのみであり、差異を特定・区分するための広域・高精度観測は現実的ではなく、気温の経過を見て判断するのが簡単、無難である。」
 ……やっぱりそうですよね。
 そして上記の「各種の局地風の5分類」に、北海道や東北の「やませ」がないなーと思っていたら、次のようなことが書いてありました。やませは「海からの東風」という日本海側の漁師言葉が語源と言われていて、北東風のイメージがあるけれど、地形によっては南風になることもあるのだとか……上記の5分類は主に「原因」別に分類されているので、やませは分類しにくかったのかもしれないな、と感じました。
 また四国の「西条あらせ」や「肱川あらし」のような名前の風は、「嵐」なのかと思いきや、この二つはどちらも天気が良いときに発生する風で、決して嵐ではないそうです……へー、そうなんだ。
 ところが九州になると「川内川あらし」は、霧を伴う嵐のような風で「嵐」になり……四国の「あらし」などが例外なのかもしれません。局地風の名前はいろいろですね……。
『図説 日本の風』は日本の代表的な局地風を総合的に解説してくれる「日本の風」図鑑として、とても参考になりました。巻末には「参考文献」や「索引」もあり、調べ物をする時に便利に使えそうな気がします。
「風」を感じる写真も多数掲載されていて見ごたえがありますが、「風」はやっぱり動画の方が迫力があるかも(一部、動画へのリンクもあります)。
 気象や私たちの身近な風について興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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