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第1部 本

社会

デジタル増価革命(此本臣吾)

『デジタル増価革命』2022/6/17
此本 臣吾 (監修), 森 健 (編集)


(感想)
「デジタル資本主義」のもとで生き残る企業と消える企業はどう違うのか……生き残るためのカギとなる「増価メカニズム」を解説してくれるだけでなく、「デジタル資本主義」を人類にとって良いものにするために、どうデザインすればいいのかを解説してくれる本で、内容は次の通りです。
序章 デジタルが生み出す増価蓄積社会
第1章 コロナ禍で加速した社会のデジタル化
第2章 「増価蓄積社会」はこれまでの社会とどう違うのか
第3章 デジタルによる7つの増価メカニズム
第4章 GAFAの強大化とD2Cの勃興にみるビジネスの増価蓄積
第5章 デジタルで増価する都市
第6章 デジタル・ウェルビーイングとデジタル疲労
第7章 望ましい増価蓄積社会をデザインする
   *
 ご存じのようにコロナ禍は、テレワークなどの社会のデジタル化を急速に進めました。これは、「デジタル資本主義」と呼ぶ新たな社会システムへのパラダイムシフトが大きく進んだことを意味しているそうです。
 従来のビジネスでは、モノは新品の時の価値が最高で、使用される時間とともに価値は劣化していきました。この仕組みが減価償却です。
 でも、デジタルサービスは、新品の時の価値が最低で、使用される中で更新されていき、時間とともに価値が高まるのです。この本では、この仕組みを「増価蓄積」と言っています。
 この二つは本質的に大きく違っていて、従来のモノのビジネスは製品企画や性能向上のための研究開発が大切で、収益の源泉が量産によるコスト削減(規模の経済)であるのに対し、デジタルサービスの方は、サービスが使用されることで蓄積されていくデータを活用したアルゴリズム改良が大切で、その収益の源泉はネットワーク効果(外部経済)やデータが生み出すアルゴリズムがもたらす価値創造(提供価値)にあるそうです。……なるほど、確かに。
 とても面白かったのが、「MVP(ミニマル・バイアブル・プロダクト)」という開発コンセプト。これは、必要最低限で単純な製品・サービスを迅速に展開することだそうです。ただしそれで終わりではなく、顧客の反応をもとに、その後の製品仕様や機能が変化・改善していくのだとか。例えば、ソフトウェアやデジタルサービス、さらにウーバー(運転手と乗客のマッチング)、エアビーアンドビー(宿泊場所のマッチング)などが事例としてあげられるそうです。……なるほど。最初は小さく、だんだん良くしていく、という開発方法は、変化スピードの速い現代にとても合っていると思います。初期投資は少ないので失敗を恐れずに新しい仕事を始められるし、その後はユーザーの意見や行動を分析することで、本当にユーザーが望んでいる姿に変えていく……とても良い方法ですね!
 そして「第3章 デジタルによる7つの増価メカニズム」では、デジタルによる7つの増価メカニズムが次のように説明されていました(本書では、もっと詳しく説明されています)。
1)強者がさらに強者になる「ネットワーク効果」
 利用者が多いサービスほど有用性が高くなり、ますます利用者数を増やす効果。
2)質の向上につながる「マッチング効果」
 最適なマッチングを行うことで利用者の満足度や稼働率を高める効果。
3)精度を高める「学習効果」
 AIによる機械学習によって生産性や顧客満足度を高める効果。
4)時間制約が緩和される「いつでも効果」
 時間制約にとらわれずサービスを受けられる、あるいは時間が節約できる効果。
5)空間の制約にとらわれない「どこでも効果」
 D2C、テレワーク、遠隔診療、デジタルツイン、仮想空間などが生み出す効果。
6)ユーザーも価値を創出する「だれでも効果」
 ユーザーがコンテンツやアプリ制作など価値創造主体になることによる効果。
7)行動を変えていく「可視化効果」
 デジタルがさまざまな情報(例:CO2排出)を可視化することで、意識と行動変化を促す効果。
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 そして「第7章 望ましい増価蓄積社会をデザインする」では、増価蓄積社会の4つのシナリオが次のように解説されていました。
1)レッセフェール(自由放任)
 主に経済価値が追及され、政府による介入もなく少数が価値の大半を蓄積。
2)ファットテール(分厚いロングテール)
 1)と同様に主に経済価値が追及されるが、多数の人が価値の大半を蓄積。
3)フィランソロフィー(慈善)
 少数の経済強者が、寄付や基金、技術協力で社会価値の創出に貢献。
4)デジタル・コモンズ
 デジタル空間に参加している成員が自主運営する組織体。
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 現在は「シナリオ1」に近い状態にありますが、日本がめざすべきなのは「シナリオ4」と提言されていました。シナリオ4=「デジタル・コモンズ」は、デジタル空間に参加している成員がそれぞれの力を出し合って自主運営する組織体なので、一人勝ちした経済強者が自分勝手に暴走する危険も防げますし、最も自然な形で「最大多数の最大幸福」をめざせそうな気がします。
 これからの「デジタルが生み出す増価蓄積社会」について、具体的に詳しく紹介してくれる本でした。「デジタル化」は避けられない流れにありますが、その中で私たちの社会をどうしたらより良いものに出来るのかを考える上て、とても参考になると思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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