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第1部 本

ビジネス・その他

メタバースビジネス覇権戦争(新清士)

『メタバースビジネス覇権戦争 (NHK出版新書 682)』2022/8/10
新 清士 (著)


(感想)
 ビジネスや経済のあり方を根底から覆すテクノロジーとして、大きな注目を集めている「メタバース」。GAFAMが動き始めたことで、急速な勢いで業界大変革が進んでいます。エピックゲームズ、ロブロックスらの先駆者から、異端のナイアンティック、日本企業まで。仁義なきプラットフォーム争奪戦を、各社はどのような戦略で勝ち抜こうとしているのか。そして仮想空間の膨張は、現実経済をどう変えるのか……長年VRビジネスを取材・研究し、自らもビジネスを行う新さんが、詳しく解説してくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 誰が覇権を握るのか
第2章 先駆者としてのゲーム企業(エピックゲームス、ロブロックス)
第3章 メタ・プラットフォームズの野望
第4章 猛追するマイクロソフトと、その他のGAFA
第5章 新興企業に勝ち目はあるか
第6章 2026年のメタバースビジネス
   *
 SNSなどの現在のサービスとメタバースとの違いは、次のような点にあります。
「SNS上でのサービスは、基本的にテキストや画像、動画といった二次元(2D)データによるコミュニケーションが主体です。それらがメタバースでは三次元(3D)主体へと移行することによって、ユーザー側のコミュニケーションのあり方が大きく変わると考えられています。
 現在、メタバースを牽引いているメタ(2021年フェイスブックから社名変更)のザッカーバーグさんは次のように言っています。
「私達はメタバースがインターネットの新時代を築くと信じています。私達はお互いにどれだけ離れていても、同じ場所にいるように感じられるようになるのです。より楽しく、より没入感のある新しい表現方法が可能になります。」
「(前略)画面を見ているのではなく、全身で体験するのです。いま私達がネットでやっていること、人とのつながり、ゲーム、仕事、エンタメなどのすべてのことが、もっと自然で鮮やかになります。」
 そして「第2章 先駆者としてのゲーム企業」では、「セカンドライフ(リンデンラボ)」や、「フォートナイト(エピックゲームス)」、「ロブロックス」などが紹介されていました。
「セカンドライフ」はメタバースの源流であり、今後発生しそうな問題も先駆的に体験しているもの。例えば、「セカンドライフ」では、リンデンドルとドルの換金性によってビジネスが可能だったそうですが、それに伴っていくつかの問題も発生したのだとか。
 また「ロブロックス」の戦略は、次のように書いてありましたが、現実的で有効なものに感じました。
「ロブロックスがユニークなのは、有料のゲーム通貨を使ってUGCの開発者が収益を得られる仕組みを持っていることです。アバターの服などのアイテムを販売したり、月額支払で特典を提供したりすることで、売上の一部がそのUGCの開発者に還元されます。」
「2004年設立のロブロックスは、そもそも教育用のツールから開発が始まっています。自分たちでコンテンツを作るのではなく、ユーザーが使いやすいさまざまなツールを用意しておき、それらで簡単に実験が行える環境を構築するというのが、当初からの目的だったのです。とりわけ「物理エンジン」と呼ばれるシステムによって、リアルタイム3Dの世界でブロックを組むように自由に物理実験を行うことができる環境づくりが目指されていました。」
 ……このように「みんなの仕事力を活用する」方法は、開発に巨額の費用が必要なのに当たり外れが激しいエンターティンメント業界で堅実に生き抜く、とても良い仕組みなように感じます。
「第3章 メタ・プラットフォームズの野望」では、メタのメタバースの基本的概念の8項目が次のように紹介されていました(もちろん本書内では、もっと詳しい説明があります。)
1)センス・オブ・プレゼンス(没入感、実在感)
2)アバター
3)ホームスペース(仮想空間での自分のプライベートスペース)
4)テレポート(任意のVR世界の切り替え機能)
5)相互運用性(インターオペラビリティ)
6)プライバシーと安全性
7)バーチャルグッズ(NFTを絡める)
8)ニューラルインターフェース(神経系からの情報を使うことで、最終的には入力デバイスなしに手の動きやジェスチャーだけで自然に操作できるように)
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 メタは、このメタバースによって雇用を生み出す(今後10年以内にメタバース人口が10億人に達し、そのデジタルコマースが数千億ドル規模となり、数百万人のクリエイターや開発者の雇用を支える)という野望も抱いているのだとか。
 また「第4章 猛追するマイクロソフトと、その他のGAFA」では、マイクロソフトやグーグル、アップル、アマゾンなどの動向を知ることが出来ました。
 そして「第5章 新興企業に勝ち目はあるか」になると一転して、メタバースにちょっと批判的な態度を示している人もいることが書いてありました。そうしているのは、なんとあの大人気ARゲーム「ポケモンGo」で有名なナイアンティックのハンケさん! 没入型VRの世界に入り込んだ人間の姿を「間違った方向に進んだディストピア的な未来への警告」だと言うのです。……うーん、これも分かるような気がします。没入型VRをやっている人って、文字通り「現実を見ていない」感じがするし、自分の経験からも「中毒性(のめり込み)」が心配になるからです。
 これに対してナイアンティックは、「テクノロジーを使ってARの『現実』に寄り添い、人々が立ち上がり、外を歩き、周囲の人々や世界とつながることを奨励する」のだとか。そしてリアルワールドメタバースの構築のために、独自AR技術の開発・展開(スマホを使ったリアル没入型AR)を行っているようです……これもとても大事なことですよね!
 また、とても興味津々だったのが、非中央集権的メタバースをコンセプトとする「ザ・サンドボックス(米ピクソール)」。これは、ユーザーが所有する土地に3Dオブジェクトを配置するなど、自由にゲームを作る仕組みを提供するもののようですが、「仮想空間内の土地の資産価値(NFTとして売却可能)」とか、「モンスターやオブジェクトは作成後にNFT化して取引所で自由に販売可能」とかいう部分が、今後、どのように展開していくのかが、とても気になります。
 そして、ちょっと嬉しくなったのが、VRで日本のクリエイター経済が成長していること。次のように書いてありました。
「VRチャットにおいて日本のユーザーを中心としたクリエイター経済の成長が続いている要因としては、日本独自の理由があります。それは日本のVRアプリの開発会社が主導して、2019年に3Dアバター向けのファイルフォーマットである「VRM」が策定されたことです。」
「日本でクリエイター経済の成長が続くもう一つの理由が、メタバースにおける展示会の登場です。」
 2018年にVRチャット上での展示会「VKet」が企画・開催され、今ではそれが定期開催になりつつあるだけでなく、セブンイレブンやローソンなどの一般企業も、VR展示会場へ参加し始めているそうです。
 ……今後、急激な勢いで普及・拡大していくのかもしれないメタバース世界でも、日本がどんどん活躍していくことを願っています。
 さらに「第6章 2026年のメタバースビジネス」では、「メタバースは短期的にはスマホが主戦場になるだろう」など、メタバースの近未来を予測していて、これもとても参考になりました。
 正直に言ってVR・AR酔いしやすい私としては、メタバースについては当面はまだ様子見でいようと考えていますが、「メタバースでは、自動車や家具、建築物の購入の時に、サイズ感をリアルに知ることが出来るようになるかもしれない」というような話を聞くと、うーん、それはいいなーと期待してもしまいます。やっぱり今後もメタバースの動向からは、目が離せそうにありません(笑)。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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