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第1部 本

社会

サイバー文明論(國領二郎)

『サイバー文明論 持ち寄り経済圏のガバナンス』2022/5/17
國領 二郎 (著)


(感想)
 旧来の制度(統治形態)の延長では、プラットフォームやビッグデータや人工知能(AI)が圧倒的な価値を生み出す社会を適切に発展させられない……新しい文明における経済活動の統治の在り方を提示してくれる本で、内容は次の通りです。
第I部 サイバー文明の夜明け:デジタル技術で富、技術、統治の形が変わる
第1章 近代工業文明の基盤:所有権交換(販売)経済とその前提
第2章 文明の進化
第3章 デジタル経済で広がる格差と富の変質:深刻化する「反乱」
第II部 新しい時代を呼び込む四つの構造変化
第4章 ネットワーク外部性:データは集積・結合で価値を高める
第5章 ゼロマージナルコスト:価格メカニズムの限界
第6章 トレーサビリティ:ビジネスモデルの時空間制約からの解放
第7章 複雑系としてのサイバー文明:創発のオープンアーキテクチャ
第III部 サイバー文明を創る技術
第8章 デジタルとネットワークが生み出すゼロマージナルコストの複雑系
第9章 IoT:センサー、IDとネットワーク技術で広がるトレーサビリティ
第10章 クラウド、プラットフォームとAIが生み出す情報のネットワーク外部性
第IV部 新しい文明の経済:サイバー文明におけるビジネスの姿
第11章 所有権交換モデルからアクセス権付与モデル、そして「持ち寄り経済」へ
第12章 劣後サービスの大きな価値:効率化、持続可能化そして格差解消
第13章 サイバー文明における価値と富
第V部 サイバー文明の倫理と統治
第14章 デジタル社会の倫理とサイバー文明の精神:アジア的価値観再考
第15章 複雑系の統治機構としてのプラットフォーム
第16章 サイバー文明時代の民主主義:分散と協調のガバナンス
あとがきに代えて――技術システムと社会システムの統合
   *
 旧来の近代工業文明では、次のような矛盾が溜まってきています。
1)共有で価値を生み出すという情報の性質が、排他的所有の考え方と合わなくなっている。
2)データ独占体が生まれやすくなり格差が生まれている
3)集積された情報によって人々が監視・操作・搾取される危険性が高まっている
 ……確かにその通りだと思います。
 そして本書では、情報技術の発達に伴って人やモノすべてのトレーサビリティが高まることで、近代工業が生み出した「大量生産品の排他的所有権を匿名の大衆に市場で販売する(交換をベースにした市場経済)」モデルから、「モノやサービスから得られる便益へのアクセス(利用)権を登録された継続ユーザーのニーズに合わせて付与する(持ち寄り経済圏:個人が社会に貢献し社会から受け取る)」モデルへと移行する、ことが語られていきます。
「第11章 所有権交換モデルからアクセス権付与モデル、そして「持ち寄り経済」へ」には、次のように書いてありました。
「(前略)「社会に貢献し、社会から報いられる経済」のモデルでは、持ち寄ることで価値を高める(ネットワーク外部性が働く)財を皆で社会に供出し、それを使うことに最大の価値を見出す人が使うことを許容しながら、その対価を社会から受け取っていくことになる。
 念のために注釈しておくと、持ち寄り経済において「所有」がなくなるわけではない。時間帯における利用権を貸し出しているだけである。その意味で、持ち寄り経済は共有経済ではない。そして所有することのメリットは、優先的に利用する権利を持つことと言っていい。」
 ……なるほど、このような「持ち寄り経済」は、効率性や格差是正の面でも良い効果をもたらしそうで、新しい社会に適合しているように思えます。
 そして個人的に最も参考になったのは、「第14章 デジタル社会の倫理とサイバー文明の精神:アジア的価値観再考」。次のような記述に考えさせられました。
「明治維新以来の日本の西洋化政策は、日本を近代工業文明における大国に押し上げるうえで有効だったと言っていいだろう。(中略)しかし、今、西側のデータを個人のものと考え、守ることに力点を置く方にばかり注力していると、猛烈な勢いでデータ活用を進めAI技術などを進化させている中国に追い付けないのではないかという危機感がある。
 日本に対してだけでなく、データ活用においては国家主導で管理し活用を進める中国モデルの方が欧米モデルよりも優れているという見方も特に産業人の間では根強い。データを公共のものとして、厳しくコントロールしながら、公共政策のためには(民間にデータを活用させることを含め)積極的に活用している中国モデルは、市場主義の原理でデータを私企業にコントロールさせ続けながらプライバシー問題に悩んでいる米国モデルよりも、早く活用を進め、技術も進化させうるように見える。この際、日本は再び中国文明を見習った方がいいのだろうか?」
「日本の神道にも色濃く考え方が残っているアニミズムは、人間を万物のなかで特別視せず、草木のような植物だけでなく、石などの非生命体のなかにも精神性を認める世界観を持っている。これが大きな意味を持つのが、コンピュータシステムなどの非生命体にも自律性がありうるという見方につながることだ。(中略)
 アニミズムの世界観からすると、人間以外が自律性や思考能力を発揮しても、特に人間の地位を脅かす新たな脅威であるという発想には至らない。ここで、AIが浸透する社会ではアニミズム的な発想の方がうまくいくのではないか、という仮説に到達する。」
「(前略)システムが複雑系の様相をどんどん強め、AIに入力されるデータも多様な情報源から取得したものが使われるようになってくると、システムの設計者といえどもつくったシステムがどのようなふるまいをするかは完全には予想できない時代が来ることは容易に想像できる。そのなかでAIによる事故も人災ではなく天災と考えた方がうまく処理できる時代が来るのだろうとも思われる。しかし、そこに到達するまでには相当の混乱があることも、覚悟しておいた方がいいだろう。」
「データを個人や法人の所有物として囲い込むのではなく、信頼できる相手に信託して、受託を受けた主体は信託者への忠実義務の実行を求められることを中心とした秩序づくりだ。」
 ……中国の個人情報の取り扱い方には、正直に言って「懸念」を感じていたのですが、個々の私企業に任せるよりは、国家のような信頼できる(するしかない)相手に委託したほうがいいのかも……と再考させられました。その委託先が実際に公正な取り扱いをしているかどうか監視する仕組みも必要だと思いますが……。(なお本書では、「制度設計の基本を東洋的利他主義をベースとした忠実義務(信頼)に尊重をおこう」と提案しています。)
 今後の社会の在り方について、深く考えさせてくれる本でした。ここで紹介した以外にも、参考になる情報や考え方が満載です。みなさんもぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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