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第1部 本

生物・進化

昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す(ティーゲソン)

『昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す』2022/3/30
アンヌ・スヴェルトルップ・ティーゲソン (著), 丸山 宗利 (監修), & 1 その他


(感想)
 植物の受粉、有機物の分解と土の再生。昆虫はほかの生きものにわが身を餌として提供し、ヒトにとって有害な生物の数を抑制し、種子を散布し、さまざまな問題解決のための知恵まで提供してくれています。自然界の中心を占める、昆虫という存在があるからこそ、地球は回りつづけている……虫たちが私たちの生活を支えていることを教えてくれる本です。
 地球で最も栄えている生きものは、私たち人間ではなく昆虫なのかもしれません。個体数と種の数では、昆虫が圧倒的に多いそうです(個体数なら過半数を昆虫が占めています)。
 この本はそんな昆虫のことを、みっちりと総合的に教えてくれます。
 前半は、昆虫そのものの話。昆虫の体の仕組みや、周囲を知覚する方法、繁殖の仕方、他の生物や植物との関係などが紹介されます。
 そして後半は、ヒトと昆虫の関わり。ヒトの食糧生産に昆虫はどう貢献しているか、都市をふくむ地球上の環境を昆虫はどう清潔に保っているか、蜂蜜から抗生物質を昆虫はどうもたらしているか、さらに最新の研究、昆虫が直面している危機まで……昆虫に関する興味津々な話がどんどん語られていきます。昆虫好きにはお宝になるような素晴らしい本ですが、昆虫嫌いの人にはかなり厳しい感じ(笑)。でもなんとこの本には、表紙以外に昆虫のイラストや写真がまったくないので、昆虫嫌いの人が昆虫のことを学ぶための最適な本になるかもしれません。
 前半の「昆虫に関する基礎知識」的な部分も、もちろんとても勉強になったのですが、すごく面白かったのは、後半の「ヒトと昆虫の関わり」。なかでも「第8章 昆虫が与えてくれるもの――バイオミミクリー、医学、セラピー」は参考になる情報が満載でした。その一部を紹介すると次のような感じ。
「ゴキブリに最新の超小型電子機器を背負わせて災害現場に送り込み、人命救助に役立てるという研究がある。電子機器の内訳はマイクロチップ、送受信機、そして遠隔操作で電流を流す装置だ。これは、ゴキブリの触覚と尾角(尻についた感度のいい器官)につなぐ。尾角に弱い電気を流すと、ゴキブリは背後から何か近づいてきたと思い、走って逃げる。触覚に電気を流すと、何かにさわったと思ってすばやく向きを変える。このマイクロコントローラーを背負ったゴキブリの群れを倒壊したビルに送り込んであやつれば、送り返されてくる信号をもとに事故現場の図面がつくれる。」
 ……うわー……そんな研究があったんですか。
 この章では他にも、「体内の特殊な袋に微生物を棲まわせて、微生物たちに邪魔な菌類を殺す抗生物質をつくらせているハキリアリ」とか、「日中と夜間の温度差を利用して暖気と冷気を循環させるシステムになっているキノコシロアリのアリ塚」とか、「乾燥休眠モードになると超過酷な環境に耐えられるネムリユスリカの幼虫」とか、スマホ画面や衣服、化粧品などへの応用が期待されている「昆虫の色(特定の光の波長だけを反射する体表の構造)」など、興味深い話がいっぱい。
 幼虫を使って傷の治療を早める治療法があるもあるようで、ティーバック状の袋に入れられた無菌状態のヒロズキンバエの幼虫が、「抗生物質に似た物質と、傷口のpH値を変化させる物質を分泌して細菌の繁殖を抑えつつ、ダメージを受けた組織を黙々と食べていく。いくつかの実験では、新しい組織の成長をうながす物質を分泌することも確認されている。ウジが食べるのは死んだ組織と膿だけで、周りの生きた組織には口をつけない。」というものがあるそうです。ウジの傷口治療は、チンギス・ハーン時代から第一次世界大戦ごろまで実際に行われていたのですが、抗生物質ができてからは影が薄くなっていました。でも抗生物質耐性菌が増えてきたせいで、再び脚光を浴びているのだとか。
 さらに、昆虫が植物を進化させていること、昆虫食は有望な食糧源になること、自然界を掃除していること……昆虫は数えきれないほどの恩恵を与えてくれるものだということを、たくさん教えてもらえました。この本の最終章は、次の言葉でしめくくられています。
「わたしたちヒトは、この地球をわがもの顔で支配するのをやめ、昆虫という無数の仲間たちが、ささやかながら満ち足りた生涯を送れるようにする道徳的な義務があるのではないか。それを真剣に考えながら、地球の上で生きていきたい。」
 ……昆虫は苦手ではありませんが、特に好きというほどでもない私でしたが、昆虫が私たちの暮らしや環境を守っていることがよく分かり、とても参考になりました。昆虫が苦手という人は多いとは思いますが、昆虫の世話になっていない人は地球に一人もいないのです。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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