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第1部 本

生物・進化

動物たちのナビゲーションの謎を解く(バリー)

『動物たちのナビゲーションの謎を解く: なぜ迷わずに道を見つけられるのか』2022/3/28
デイビッド・バリー (著), 熊谷玲美 (翻訳)


(感想)
 ときに数千キロ、数万キロも旅をする動物たち……なぜ身ひとつで広大な地球を渡っていけるのか? 動物ナビゲーションの世界的な科学者たちが、その謎を探究している本です。
 動物たちは、驚くほど高度なナビゲーションをしているようです。例えば、小さな脳しかないサバクアリの研究でも、ナビゲーションに「e-ベクトル」「時間補正式太陽コンパス」「走行距離計」「オプティックフロー」「イメージ照合システム」「風向き、振動、匂い」「磁気」などの複数の情報を利用していることが分かってきたそうです。
 またウミガメの子どもは生まれるとすぐ遙かな海へと出ていくのに、大人になると産卵のためにまたその場所にちゃんと戻って来られるという不思議……どうやらウミガメはある種の「地図」を使っているようなのです。それは地球を取り巻く磁場のマップ。それに加えて、生まれた場所の磁気特性が体内に刷り込まれているおかげで、元の場所に戻ってこれるのだとか……。
 この他にも、ミツバチは太陽の方位角の変化に合わせてダンスの向きを変えているとか、時間補正式太陽コンパスを備えている(しかも日の出と日の入り頃に生じる地球磁場強度の規則的な日変化を使って、太陽コンパスをつかさどる体内時計を較正している)などの驚きの話をたくさん読むことができました。
 このような動物のナビゲーション方法に関する研究は、すぐに特定されたわけではなく、一進一退を繰り返してきた混乱した経緯もあったのですが、それは無理もないことだったようです。というのも、動物たちはナビゲーションに複数の情報を使っている(しかも状況に合わせて変えている)からです。「第12章・・鳥は匂いを頼りに巣に戻れるか」には次のように書いてありました。
「鳥のナビゲーションをめぐる混乱のほとんどは、鳥が(他の動物と同じように)幅広い種類のナビゲーションメカニズムを使用していて、自分の置かれた環境に合うようにメカニズムを選択していることから生じる。それぞれのソースから得られる情報の質を、何らかの方法で吟味したうえで、どのメカニズムが最も信頼できるか判断し、それによって旅の各ステージでそれぞれ違うナビゲーションツールを使うのだろう。」
 ……考えてみれば私たち人間も、道に迷った時には、視覚情報(あのビルには見覚えがある)だけでなく、聴覚情報(向こうで電車が走っているようだ)とか、嗅覚情報(近くにパン屋がある)とか、さまざまな情報を組み合わせて、正しい道に戻ろうとします。動物たちも同じなんだなーと思いました。
 また「第19章・・時差ボケのヨシキリが教えてくれたこと」では、次のような情報が。
「成鳥は大陸規模で、あるいはもしかしたら地球規模で機能する「ナビゲーションマップ」を獲得しているに違いない」
「(いくつかの研究が)経験を積んだ成鳥は通常の渡りルートの情報をすでに獲得しているが、幼鳥にはそれがないことを示している。したがって、経度方向の変化(偏角情報から得られる)を補正する能力は学習で得られるものであって、遺伝によって生まれつき備わっているスキルではないことになる。」
 幼鳥と成長の行動の違いから、鳥のナビゲーション技術は「学習」によって向上することが明らかになってきているようです。生き物って凄いですね……。
 さて、「第1章・・生物がナビゲーションを始めたとき」には、地球の歴史上、最も早く磁気ナビゲーションをおこなった生物は、走磁性細菌だと書いてありました。
「走磁性細菌は磁気を帯びた微粒子を含んでいて、この微粒子がひものようにつながるとミクロサイズのコンパス(方位磁針)のように機能する。走磁性細菌は、水や堆積物の中の深いところにある酸素の少ない層で増殖するが、この「針」のおかげで地球の磁場に沿った方向、つまり下方向に身体を向け、酸素が少ない層へと移動できる。」
「(前略)走磁性細菌の化石は数億年前、あるいは数十億年前の岩石から発見されることがある。走磁性細菌は、地球の歴史上最も早く磁気ナビゲーションをおこなった生物とされる(後略)」)
 ……動物にはナビゲーションに磁気感覚を使うものも多いですが、これは最古の技術(?)だったんですね。地球の磁力線は次のようになっていて、場所(緯度)が分かるようです。
「磁力線は、一方の磁極から垂直に出ると、徐々に傾きが小さくなりながら地球の周りを伸びていき、赤道域では地表と並行になる。そしてふたたび反対の極へ垂直に入る。この磁力線と地表の角度は「伏角」と呼ばれており、場所によって変化する。」
 そして「第23章・・磁気の謎はどこまで解けたのか」によると、なんと人間にも磁鉄鉱はあるそうです。
「(前略)昆虫や鳥、魚、そして人間でも磁鉄鉱が見つかっている。
 磁鉄鉱があちこちにあるということは、何か重要なことをしているに違いない。たとえばミツバチには、腹部に磁鉄鉱からなる永久磁石がある。(中略)ミツバチには、上腹部にも特殊化した数百個あって、これにはばらばらの粒状の磁鉄鉱が何千個も入っている。こうした細胞はマトリックスという部分に埋め込まれていて、それが周囲の磁場の変化に合わせて伸びたり縮んだりすると考えられている。このメカニズムがミツバチの伏角コンパスになっているという見方もある。」
 ……人間の磁鉄鉱が人間のナビゲーションの役に立っているのかどうかは不明のようですが、少なくともミツバチでは役に立っているような気がします。このような体内の構造が分かってくると、昆虫や動物のナビゲーションの秘密がさらに明らかになっていくかもしれません。
 動物のナビゲーションについては、まだまだ謎も多いようですが、その研究はますます盛んになっているようです。それはその技術が今後、自動運転車やロボット、量子コンピューターなどの先端技術から、認知症のケア、感染症の拡散防止、生物多様性の保全などの分野で活かせる可能性が高いから……これからの研究の進展に期待したいと思います。
 動物たちのナビゲーション技術に関する最新の研究成果を総合的に紹介してくれる本で、とても興味深く、勉強にもなりました。興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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