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第1部 本

数学・統計・物理

カオスとアクシデントを操る数学(バーガー)

『カオスとアクシデントを操る数学―難解なテーマがサラリとわかるガイドブック』2010/6
エドワード B.バーガー (著), マイケル・スターバード (著), 熊谷 玲美 (翻訳), & 1 その他


(感想)
「カオス」や「偶然の一致」、「無限」などの難解な数学的テーマを、分かりやすく解説してくれる本です。(……と言っても、私にとっては「難解なテーマがサラリとわかる」という程ではありませんでしたが……汗。)
 ぱらぱらページをめくると、数字の羅列が目にはいって頭がくらくらしそうになりますが、意外にも「複雑な数式の理解を強要される」ことはほとんどなく、文系の人にとっても割と分かりやすい解説になっていると思います。数学の本ですが、内容的には哲学的な本だと思います。
 さて、第一部は「不確実さとは何か?」として「偶然の一致」からスタートします。そしてアメリカ大統領のリンカーンとケネディの二人には、信じられないほど多数の「偶然の一致」があることが列挙されていきます……やはり彼らは選ばれし人だったのか、と宇宙の神秘を感じてしまいましたが……実は不一致の方がずっと多いのに、一致する項目だけを列挙したので、なにか神秘的なことが起こっているかのように見えただけのようでした(汗)。
 このように第一部では、数字にごまかされないための知恵を教えてくれます。
 例えば、「米国の各学校の卒業生の平均収入が突出して高かったレークサイドスクール」の話を読むと、この学校に子供を入学させたくなるでしょうが、実はこの学校の卒業生には、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツとポール・アレン(二人ともその年の年収が数十億ドル)がいたのでした(笑)。……このように「平均値」に騙されることもあるので気をつけましょう。
 また「リテラリー・ダイジェスト」誌が行った1936年の大統領選挙での統計に関する大失敗。予測を大きくはずしてしまったのですが、その理由は、調査用紙の送付先名簿が「リテラリー・ダイジェスト」誌の購読記録などから作られていたので、調査の対象者が富裕層に偏ることになってしまったことにあったそうです。……マーケティングなどで統計を取る時には、母集団が調査対象を正しく反映しているかどうかのチェックが必要ですね。
 その他にも、「飛行機の安全性を高めると、人間の死亡率が上がる」という意外な関係も、(飛行機の安全基準を上げる→費用がかさんで運賃が値上がりする→飛行機を使わずに自動車で移動する人が増える(車による死亡率は飛行機による死亡率よりずっと多い)→死亡率が上がる)と考えると納得できます。
 さらに第二部の「数を抱きしめて」では、「公開鍵暗号」(因数分解を利用する)の仕組みや、巨大な数、フィボナッチ数列についてユーモアを交えて語ってくれます。
 そして第三部は「美学を探る」。黄金比やフラクタルについてイラストでの説明があります。そして「「ドラゴン曲線」の名で知られている無限に複雑な画像を描く処理には、紙を折るという単純作業しか要らない」と言って、折り紙で「ドラゴン曲線」を解説してくれます(正直に言って、これは分かりやすいとまでは言えませんでしたが……汗)。
 最後の第四部「現実を超えたところ」では、四次元と無限についての解説。
「ピンポン玉を樽に10個放り込む。そして手を入れて1個つまんで取り出す。(中略)これを永遠にくり返したらどうなるだろう……」という話では、(9個ずつ増えていくから、樽は当然ぎっしり詰まる)と考えたのですが、著者によると「なんということか、樽は空になる」のだとか!
 ……要するに、「無限に1を足しても無限の大きさはこれっぽっちも変わらない。それどころか無限に無限を足してももっと大きくなったりはしない」ので、「ピンポン玉が無限に取り出されるのだから樽は空になる」ということのようなのですが、なんだかゼノンのパラドックス『アキレスと亀』を思い出してしまいました。……これって、「樽は空になる」のが正しいだけでなく、「樽はいっぱいになる」のも正しいってことですよね? なんかこういう「無限」とか「量子」とか言う考え方って、分かるようで分からないような……(汗)。
 それでも「四次元」に関する説明は、とても面白くて分かりやすいと思いました。「四次元」のような難しいことを考えるときは、同じことの低次元パターンを考えると分かりやすくなるそうです。だからここでは、二次元人を想像してみるということで……テーブルの上に住んでいる二次元人に、私たち三次元人がウサギのマジックを見せる場合は、三次元目の自由度を使ってウサギを上からテーブルに置いてみせれば良い……同じように四次元人は、四次元目の自由度を使って私たちにウサギの手品を見せることが出来るのだとか。うーん、なるほど。四次元というと、普通は時間軸を使って説明されることが多いような気がしましたが、このように考える方がずっと応用がきくように思います。この「難しいことを考えるときは、同じことの低次元パターンを考える」という考え方は、数学だけでなく、いろいろな場面で活かせそうな気がしました。
 この本には、これらの難解なテーマへの分かりやすい(かもしれない)解説があるだけでなく、1セントコインを使った賭けで勝率を上げる方法も書いてあるので、ぜひ読んでみてください。
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