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第1部 本

音楽

こうして管楽器はつくられる【開発編】

『こうして管楽器はつくられる【開発編】 ~ウィーン・フィルを支えた管楽器開発の舞台裏~ 』2020/2/21


(感想)
 ウィーン・フィル管楽器絶滅の危機を救ったヤマハ管楽器開発陣の努力の舞台裏を知ることが出来る本です。管楽器の製作がどのように行われるのかも詳しく知ることができます。(なお、この本は、管楽器専門誌『パイパーズ』に掲載された記事をまとめ、書籍化したものだそうです。)
 ウィーン・フィルというと、ご存じの通り世界一とも言われる名門中の名門交響楽団で、気位の高さや気難しさでも有名ですが、その管楽器を救ったのが日本の楽器メーカー(ヤマハ)だったことを初めて知りました。
 実はウィーン・フィルは、伝統の音色をとても大切にしているので、昔ながらの楽器(ウィンナモデル)を大事に使っているそうなのですが、これらが、便利な方向へと進化している現代の一般的な楽器とは乖離してしまっているために、この種の楽器を製作・修理してくれるメーカーが絶滅しつつあるそうです。
 それを案じたウィーン・フィルのメンバーが、ヤマハにウィンナモデル管楽器の開発を依頼。ウィーンの伝統を繋ぐために、楽器の共同開発が始まったそうです。
 ところがこの開発は、「日本人にできるわけがない」とか「日本楽器と仕事をするのはヨーロッパ文化の誇りが許さぬ」という他の団員たちや関係機関の偏見との戦いの他にも、「数少なくなっている貴重な古い楽器を破壊して調べられない」、「そもそも需要がない楽器で販売台数が見込めないので採算がとれない」などの大問題が山積するなか進められていきました。
 それでも、さすが多種類の楽器作りの実力のあるヤマハだけあって、試作機の段階から団員たちに気に入られ、最初はトランペットだけだったはずが……次第にホルン、オーボエ、トロンボーン、フリューゲルホルン、ユーフォニアムなど多くの管楽器を、現地の演奏家たちの要望に応えて再現・改良・供給することになったそうです。
 ……ふーん、そうだったんだ(ため息)。毎年の年始にTVで楽しんでいたウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートですが、これからは、あの管楽器はもしかしたら日本製なのかも……と、さらに楽しく視聴できそうです(笑)。
 もちろんこれらの開発は容易ではなく、失敗や改善への試行錯誤も詳しく知ることができます。楽器作りの大変さや、ウィーン・フィル側の文化的葛藤・危機感・楽器への熱意など、興味津々でとても読み応えがありました。
 そして、この本の後半、「第2部:管楽器の開発を支える技術」では、ウィンナモデル以外の管楽器の開発として、ファゴットのボーカル開発、ホルンの巻き方、金属の知識、そして管楽器の音響学が紹介されます。
 特に「ホルン」については、その作り方が詳しく解説されるだけでなく、「ホルン製作現場をルポ」として製作中の写真も多数見ることが出来るので、ホルン奏者の方は必見です☆
 さらに金属の知識など、管楽器を吹く人にとって参考になる情報もありました。その一部を紹介すると、次のような感じ。
「金管の管体材料による音の違い」
・イエローブラス(銅70%+亜鉛30%):明るく張りのある音色
・ゴールドブラス(銅85%+亜鉛15%程度):幅のある豊かな音色
・レッドブラス(銅90%+亜鉛10%程度):柔らかく、落ち着きのある音色
・金:深みのある透明度の高い音色
・銀:柔らかく、温かな音色
・洋白:明るく、柔らかい音色
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 楽器製作って、ロマンチックなイメージがありましたが、いろんな意味で本当に大変なんですね(ホルン製作の写真を見ると、なんだか町工場の金属加工現場みたいです……)。
 ところで、この本はウィーン・フィル用の最高級楽器の開発物語でしたが、個人的には、超初心者向けの管楽器、運指訓練用の楽器もどきも開発して欲しいと思います。
 サックスを例にするなら、「本物のサックスと同じ形をしていて運指訓練が出来る」、「本物のサックスと同じように吹ける」というもの。本物のサックスと同じ形のものを3Dプリンタで作って、息は管体に流さず、そのまま外に排出する形にして(息を入れる部分と管体の間をふさいで)、この管体をスマホにつないで、音はスマホから出すのです。要するに、実際の楽器とほぼ同じように演奏(運指)はできるのですが、音は楽器からではなくスマホから出るという「なんちゃってサックス」(音量コントロールはスマホで出来る)です。
 管楽器超初心者にとって困るのは、「大きな音を出さないと練習にならない」こと。管楽器はある程度上達しないと音の強弱すらコントロール出来ないので、へたくそな音でも周囲に迷惑になってしまうような大きな音を出してしまいますし、そもそも指使いに慣れるための運指の練習をするのにも音を出すのが必要……こういう悩みを、この「なんちゃって管楽器」があれば一気に解決できますし、3Dプリンタなどの現在の技術を駆使すれば、「なんちゃって管楽器」を作るのは簡単ではないでしょうか? 少なくとも、ウィンナ・モデルよりは開発が容易で、需要もかなり見込める有望な商品ではないかと思うのですが……。音を出すのはスマホではなく、既存の電子キーボードでもいいかもしれません。それなら入力端子と変換器(外付け)だけを新たに作るだけで簡単に実現できるかも。他社の電子キーボードとの差別化も図れますし。
 もっとも、管楽器は同じ運指で違う音(オクターブ高い音など)を出すことがあるので、その実現が難しい場合は、「なんちゃって管楽器」では標準の1オクターブしか出せないという制限がつけられても仕方ないかも。作ってくれると嬉しいです。
 ……おっと、かなり脱線してしまいましたが、えーと、この本は管楽器を演奏する人にとって、すごく興味深い記事・参考になる記事が満載です。ウィーン・フィルの楽器の話でもあるので、クラシック音楽が好きな人にとっても面白いと思います。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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