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第1部 本

社会

科学と倫理-AI時代に問われる探求と責任(野家啓一)

『科学と倫理-AI時代に問われる探求と責任』2021/2/6
野家 啓一 (著), 酒井 邦嘉 (著, 監修), 廣野 喜幸 (著),


(感想)
 AI、生命科学、宇宙科学の急速な進展のなか、いかなる規範を自らに課すべきか……「科学者の責任」を13の切り口で考察している本で、内容は次の通りです。
【第I部 社会に開かれた研究倫理】
第1章 野家啓一「3.11以後の科学と倫理」
第2章 酒井邦嘉「ロボット三原則と科学者三原則」
第3章 廣野喜幸「科学者の社会的責任――専門知の失敗と責任システム」
【第II部 これからの生命・AI・宇宙時代に問われるもの】
第4章 須田桃子「合成生物学の倫理とデュアルユース性」
第5章 小川眞里子「感染症の科学と倫理」
第6章 鈴木邦彦「遺伝病医療の倫理」
第7章 前野隆司「AI時代の科学技術倫理」
第8章 江間有沙「『本人らしさ』の探求と演出――人工知能技術による『よみがえり』をめぐる論点」
第9章 神崎宣次「人類の生存と宇宙進出の問題」
【第III部 文化としての科学倫理思想】
第10章 村田純一「科学の創造性と倫理性――ベーコン的科学の行方」
第11章 岡本拓司「原子爆弾と『聖断』」
第12章 正木晃「宗教由来の倫理は科学の倫理に応用できるか?」
第13章 安藤礼二「エコロジー思想の起源とその両義性」
あとがき 金子務先生を偲んで 酒井邦嘉
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 こういう原則はあった方がいいな、と思わされたのが、「第2章「ロボット三原則と科学者三原則」」の科学者三原則で、次の通りです(もっとも、わざわざ原則として作らなくても、人間として普通に守れそうな気がするのですが……そうでもないのでしょうか?)。
第一条:(証拠保持の原則)科学者は、対象となる事実(実験や調査の結果)の証拠と、真理(法則や規則等)や着想を示す証拠(試料やノート)を一定期間保管する必要がある。また、これらを偽ったり、不正や剽窃で歪めたりしてはならない。
第二条:(他者尊重の原則)科学者は、研究の直接的な利用(例えば化学兵器や生物兵器の開発)によって、他人の体や心を傷つけてはならない。ただし、本人の同意を得て治療効果が期待できる場合(比較実験を含む)は、この限りではない。
第三条:(研究自由の原則)科学者は、自由な研究と知的好奇心ができる限り保障される必要がある。ただし第一条や第二条に反する場合と、公共善(福祉や安全等)に反する場合は、この限りではない。
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 また、「第3章 「科学者の社会的責任」」の次の記述にも考えさせられました。
「かつて商業用航空機の事故率は相当高かった。だが、業界の努力によって、現在では、格段に減っている。そのさい、自己の原因などの情報収集がかなり頑張ってなされ、それが事故率減少対策につながったのだが、事態の改善を可能にしたのが免責システムである。自己が処罰されかねないとなると、人は口をつぐんでしまう。そうなると、正確な情報を得ることができず、改善が図れない。そこで悪質な刑事犯罪の場合は別だが、基本的に、提供された事故情報によってその人を処罰しないとしたのである。一方、医療事故の場合、遺族グループが免責をついに認めなかった。このため、医療事故では、原因の解明どころか、事例の報告の収集すらままならない状況にあり、現状が不明な段階に留まっている。
 ここでの私たちの目的は、専門知の失敗による被害の低減なのであって、処罰にあるのではない。法的責任システムは処罰に傾きすぎる弊がみられるといえよう。なるほど、禁固や公職追放といった処罰は厳しい処罰であって、それを問われるとなれば、科学者たちもより真剣になり、より慎重になって、被害が減る可能性もないではない。しかし、そうなるとあえて社会問題にかかわることを科学者は避け出すのではないだろうか。」
「疫学の専門家は感染症リスク削減のための最善・次善・三善……の策を出す。経済の専門家は富の観点から最善・次善・三善……の選択肢を提案する。それぞれの専門家がそれぞれの専門知に基づく局所的最適化を目指す方針を示し、それらすべてを見渡したうえで政府・行政が総合判断し、広域的最適化を図る。斯界の見るところ、科学技術リスク管理のもっとも望ましいシステムはこのようなものになるだろう。だが、現状はそれからかけ離れている。」
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 ……科学は倫理を尊重しつつ発展していって欲しいと願っています。
 また「第10章 「科学の創造性と倫理性」」では、哲学者の加藤尚武さんの言葉が紹介されていました。
「素朴な自然主義への復帰はもう不可能である。人間は自分で自然を設計し直さなければならない。人工的に反人工的な自然を保持しなければならない。本当の自然らしさを設計しなければならない。この逆説に耐えて実践的に切り抜けることが、科学/技術の行方にまつ人間の責務である。」
 ……まさしく、その通りだと思います。デジタル技術やAIが、私たちの生活を激変させていくことが予想される今、科学者を含む私たち人類は、科学技術を正しく使い続けていくために、どうすべきなのかを真剣に考え、実行し続けていくべきなのでしょう。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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