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第1部 本

科学

トポロジカル物質とは何か(長谷川修司)

『トポロジカル物質とは何か 最新・物質科学入門 (ブルーバックス)』2021/1/21
長谷川 修司 (著)


(感想)
 人類の物質観を革新する物質群、「トポロジカル物質」のしくみを詳しく教えてくれる本です。
 難解な物理学、それも量子現象などを、数式を使わずに、一般人でも理解できるよう可能な限り分かりやすく説明してくれています。
 トポロジカル物質とは、次のような性質をもつ物質だそうです。
「トポロジカル物質では磁場を印加しないにもかかわらず、量子ホール効果状態と同じように試料の内部では電子が(局在して)流れず(絶縁体状態)、試料の端だけを電子が流れる(金属状態)のです。(中略)トポロジカル物質は、「時間反転対称性が保たれている量子ホール状態」だと言われます。」
「スピン軌道相互作用が、トポロジカル物質のもとになっています。つまり、このスピン軌道相互作用の強い物質がトポロジカル物質になりやすいのです。」
 またトポロジカル絶縁体とは、次のようなものだとか。
「物質内部にいる電子はシュレディンガー電子でバンドギャップのある絶縁体状態になっているが、その物質表面にいる電子は金属的なディラック電子になっているというのがトポロジカル絶縁体なのです。」
「トポロジカル絶縁体では、物質の中身のバンド反転がなくならない限り、その表面でも金属的な状態は消えないのです。」
 ……ふーん、そうなんですか……えーと……もちろん本書内では、イラストなどを使って、もっと詳しく説明されています。
 実はこのトポロジカル物質などの解説は、「第III部 トポロジカル物質とは何か」以降にあるのですが、それ以前は、トポロジカル物質を理解するための前提知識や、トポロジカル物質研究の経緯などの説明があって、これがとても勉強になりました。例えば第I部では、要約すると次のような説明があります。
「物質の内部には膨大な数の電子が詰め込まれていて、それらが動いたり(伝導)、不純物や欠陥に跳ね返されたり(散乱)、ある場所にとどまったり(偏在)、ポテンシャル障壁で閉じ込められたり、あるエネルギー状態から別のエネルギー状態に飛び移ったり(遷移、励起)、スピンが上を向いたり下を向いたり(スピン反転)、と絶えず動き回っています。そのような電子の「振る舞い」の違いが物質のさまざまな性質の違いを生み出している」
 ここで説明してもらえた「超電導」や「トンネル効果」などの解説は、今まで読んだ中でも最も分かりやすいものだったように感じました。
 さて、トポロジカル物性を理解するキーワードの一つは「電子バンド」のようです。次のような記述がありました。
「物質の性質は、電子バンドの特徴をもとに説明できること、特に、バンドの傾きが急峻なのか平らなのか、バンドの形が放物線形なのか直線的なのか、バンドギャップが大きいのか小さいのかゼロなのか、などの特徴が物質の性質に現れてくることはすでに知られていたことでした。
 しかし、トポロジカル物性は、そのようなバンド分散の形ではなく、バンドを作る電子の波動関数そのものが変わってしまうことに起因しているので、従来の物性とは一線を画することがおわかりいただけたと思います。バンドそのものが「変性」してしまうという現象は、バンド分散の形が多少変わってしまっても容易に消えません。ですので、トポロジカル物性は物質の純度や結晶性、湿度などにあまり影響を受けず、「頑強」だといわれるのです。」
 ……正直言ってトポロジカル物質については、一回読んだだけではとても理解できるものではありませんでしたが、それでも「なんとなく、少しは」分かったところもあるような気がします……(弱気)。
 このトポロジカル物性は、今後、化学反応などを詳しく理解するために重要な知識になるのかもしれません。この本の「おわりに」には次の文章がありました。
「化学反応や生物現象として理解されている現象でも、そのもとは電子の受け渡しによる原子の結合の組み換えが基礎になっているので、そこでは必ずさまざまな量子効果が起こっているはずです。そのような根本的なレベルまで理解しようとすれば、トポロジカル物性も含めて量子物理学によるモノとしての理解が必要なのです。たぶん、私たちの記憶や忘却、ひらめきなども量子現象に基づいて説明できるのではないかと考えています。しかし、そのためには今までに知られている量子効果だけで十分とは思えません。トポロジカル物性のように、まだ発見されていないモノの性質が、生命現象の不思議を解く鍵になっているとも考えられます。その意味で、モノの性質を、量子レベルから説明する物性物理学がさまざまな分野のフロンティアを切り拓く駆動力になるはずです。」
 ……難解な物理学について、かなり分かりやすく説明してくれる貴重な本でした。トポロジカル物質に興味のある方はもちろん、物理学が好きな方も、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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