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第1部 本

社会

世界の地下都市 大解剖(オーブンデン)

『世界の地下都市 大解剖 立体イラストで巡る、見えない巨大インフラ』2021/2/18
マーク・オーブンデン (著), & 3 その他


(感想)
 世界の近代都市の成長過程をたどりながら、外側からは見ることのできない地下構造物の概要を、イラストや写真を使って解説してくれる大型本で、内容は以下の通りです。
●南北アメリカ
ロサンゼルス[アメリカ]ストリートカーとともに育った街/メキシコシティ[メキシコ]かつての湖に広がる街/シカゴ[アメリカ]一段高くなった街/シンシナティ[アメリカ]実現しなかった地下鉄/トロント[カナダ]全天候型のショッピングモール/モントリオール[カナダ]気温が生んだ地下ショッピング街/ニューヨーク・シティ[アメリカ]世界の首都/ボストン[アメリカ]茶会事件はほんの始まり/ブエノスアイレス[アルゼンチン]迫害と穴の歴史
●ヨーロッパ
ジブラルタル[イギリス領]謎めいた岩山/マドリード[スペイン]迷路とメトロ/リバプール[イギリス]世界初の鉄道トンネル/マンチェスター[イギリス]先駆者たちとはかない夢/ロンドン[イギリス]事の起こりはローマ人!/バルセロナ[スペイン]計画された都市/パリ[フランス]ヨーロッパの穴あきチーズ/ロッテルダム[オランダ]海を制する/アムステルダム[オランダ]運河の下に潜むもの/マルセイユ[フランス]地下鉄が生んだビーチ/ミラノ[イタリア]地下室と芸術作品/オスロ[ノルウェー]紆余曲折のトンネル開通/ローマ[イタリア]屋根が基礎になる街/ミュンヘン[ドイツ]灰からの復活/ベルリン[ドイツ]分断と復興/ブダペスト[ハンガリー]熱水の地層/ストックホルム[スウェーデン]トンネルを愛して/ヘルシンキ[フィンランド]街全体をシェルターに/モスクワ[ロシア]秘密の地下空間
●アジアとオセアニア
ムンバイ[インド]7 つの島からなる都市/北京[中国]手作業で築かれた地下都市/東京[日本]超巨大都市の地下にあるもの/シドニー[オーストラリア]どこにも行きつかない道
●惜しくも選から漏れた地下都市
●参考資料/索引

『世界の地下都市 大解剖』というタイトルなので、地下都市の全容を詳細に描いたイラストが多数掲載されているのを期待してしまったのですが、イラストは地下都市の概要が分かる程度のものだったので、「地下構造物の全容の精密な立体イラストや写真」としては期待はずれだったのですが、各都市の成長過程の経緯(記事)とともに、地下都市のマップや地下鉄路線図を見ることが出来て、世界中の都市をめぐる時空を超えた旅が出来たような気分になれました。
 例えばシカゴは、なんと「街を丸ごと持ち上げている」そうです! ミシガン湖のほとりの低地で19世紀前半に急速に発展したシカゴは、雨の多い季節には歩道に水があふれ、チフスや赤痢がたびたび流行する、ぬかるんだ街だったようです。それを「1850年代半ばからおよそ10年をかけて進められた当時最大の土木工事事業により、シカゴ中心部の歩道ばかりか、建物の高さまでもが2メートル近く上昇することになった。」のだとか!
 驚いたのは、無駄になったり放棄されたりしている巨大な地下工事が世界中にたくさんあること。例えばシンシナティの幻の地下鉄網。これは基本的には頑丈に作られていたことから、今も無傷で残っていて、たまに公式ツアーが開催されているそうです(笑)。
 トロントでは、2000年代半ばに、熱波の際に湖の水で街を冷やそうともくろんだ公益事業会社が、ひそかにトンネル掘削工事を進めた……って、2000年代にもなって、そんなこと、「こっそり」出来るものなのでしょうか? トロント、おそるべし。
 そして古代のヨーロッパじゅうで土木工事していたローマには、もちろん古い地下水道などが多数残っているそうです。
「ローマの丘を囲む低地の谷は実質的には海抜ゼロメートル以下だが、この事実は忘れられがちだ。ほとんどの谷では、水を抜き、人海戦術で粗石で埋め立て、地面を10メートルほど高くする工事が行われた。その機に乗じて、ローマの土木技師たちは水路をつくるスペースを確保し、ほどなくしてこの水路は下水道になる。」
 ……こんな感じで世界の大都市の成り立ちを、地下空間の面から見ることが出来るのです。
 ただし世界中とはいっても西欧に偏っていて、アジアの都市は少なかったように感じました。
 日本については、「東京」しか取り上げられていません(「惜しくも選から漏れた地下都市」には、大阪、天神、広島が、名前だけ取り上げられていますが……)。それでも、知らなかった意外な情報もありました。
「最初に開通したのは、現在「銀座線」(東京メトロの運営)と呼ばれている路線だ。1927年に開通したこの路線は、アジア最古の地下鉄と言われている。」
……日本最古だとは知っていたけど、銀座線はアジア最古でもあったんだ……。
 その他にも、2045年以降に完成予定の「スカイマイルタワー」という世界一高い超高層タワー計画(高さ1700メートル、400階建て、5万5000人ぶんの住居)があることを初めて知りました……。もちろん首都圏外核放水路や、アクアラインもぬかりなく取り上げられています。
 世界の都市の地下鉄発展史を知ることが出来る本で、とても楽しめました。大型で少し高価(3,200円+税)な本ですが、興味のある方は一度眺めてみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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