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第1部 本

生物・進化

森の根の生態学(平野恭弘)

『森の根の生態学』2020/12/23
平野 恭弘 (編集), 野口 享太郎 (編集), 大橋 瑞江 (編集)


(感想)
「樹木の根」に関する基礎知識と研究手法や最新動向を、総合的に解説してくれる本です。
 第1章から第3章までは、樹木根の基礎的な仕組みについて、太い根や細い根などの機能や構造、成長特性を通して紹介しています。
 第4章では、変動する環境下における樹木根の反応を、第5章では、根系の発揮する減災機能を取り扱います。そして終章では、樹木根の発揮する生態系サービスをとりまとめて、持続可能な森林や社会への貢献を「樹木の根」という視点から解説しています。
 この本は、樹木の根を介した森林生態系の新たな理解を広めることを目的に、「樹木の根を対象とする唯一の教科書」として、第一線の研究者らにより執筆されたそうです。
 樹木の根に関する総合的な情報を網羅していますが、最新の研究内容を数多く含む内容になっているせいか、「研究の途中経過」という感じの不確定な記述が多数あり、「教科書」というほど体系的に整理された内容ではないように感じました。「樹木の根」は周辺環境(幹や葉、周辺土壌の化学的特性、他の植生・菌類、気候など)と密接に関連しあっているので、単体での研究がとても困難で「確定的な情報」を出しにくく、現時点ではこれがせいいっぱいなのでしょう。だから「教科書」とまでは言えないまでも、総合的な「参考書」として、とても役に立つと思います。
 個人的にとても興味深かったのは、「第5章 樹木根の発揮する減災機能」で、「樹木根が土壌浸食の抑制や表層崩壊の防止の働きに役立つ」ことが示されていたこと。
 そして「土壌浸食を抑制する管理方法」として、「間伐で伐倒された木を等高線上に並べる筋工を実施したところ、土壌侵食を抑制する効果が見られた」とか、「樹木根に着目した森林植生の管理」として、「高木種を適切に間伐して抵抗モーメントを増加させ樹木の倒れにくさを増強することに加えて、低木種を下層に育成することで、高木種の根系による補強強度と合わせて斜面補強を図ることができる」とか、森林を管理する上で参考になりそうな情報も読むことができました。
 今後は、「エリアごとの植生管理による崩壊防止力の増強」のために、森林の管理対象エリアを、「発生区域(崩壊防止)」、「流下区域(土砂流下緩衝)」、「堆積区域(土砂捕捉)」に分けて整理する方向に向かっているようです。
 森林は私たち人間に、次のような恵みをもたらしてくれています。
1)生物多様性保全機能
2)地球環境保全機能
3)土砂災害防止・土壌保全機能
4)水源涵養機能
5)快適環境形成機能
6)保健・レクリエーション機能
7)文化機能
8)物質生産機能
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 現在、温暖化を伴う気候変動が、地球の生態系に及ぼす影響が懸念されています。樹木も温度や降水の変化に伴って成長が変化するので、温暖化によって樹木が枯死してしまう可能性もあり、そうなると温暖化を加速させてしまうかもしれません。
「森林の恵み」でも分かるように、森林は私たちの生活になくてはならないものですし、「樹木根」はそれを支える、まさに「根本」となるものです。次世代の人々に、この樹木根に関わる生態系サービスを健全な状態で受け渡すために、今後も「樹木根」の研究や保全を進めていって欲しいと願っています。
「樹木の根」について、基礎知識や最新研究など総合的に解説してくれる本でした。樹木に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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