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第1部 本

社会

イノベーションはいかに起こすか(坂村健)

『イノベーションはいかに起こすか: AI・IoT時代の社会革新 (NHK出版新書)』2020/10/10
坂村 健 (著)


(感想)
 イノベーションが起こりやすい社会は、どのように設計すればよいか。イノベーションを起こせる人材を、どのように育てればよいか。「リアルタイムOS」TRONプロジェクトのリーダーの坂村さんが実践している新しい教育と、研究者としての来歴を通して、「イノベーションを起こすヒント」を語ってくれる本です。
 とても素晴らしいと思ったのが、「第2章 「文・芸・理」融合人材が日本を救う」で紹介されていたINIAD(東洋大学に新しくつくった「情報連携学部」のブランド名)。2017年に開学した新しい学部で、坂村さんが学部長をしているそうです。
 ネットワーク時代に対応した新しいイノベーションを起こせる人材を創出することを目的として創設されたINIADは、プログラミング学習に力を入れていて、学校の施設(建物全体がIoT環境になっている)を使って、実際に照明のオンオフやロッカーの開閉などの制御をさせるという実践的学習が可能(演習もしている)なのだとか。
「先生が一方的に話す講義は、インターネットでいつでもどこでも見ることが出来るので、学生はあらかじめオンラインで授業を受けてから学校に来ることになる。そして学校では、学校にいないとできないようなことを中心に勉強することが求められる。」
「INIADでは、企業のリクエストに応じたカリキュラムを作成し、業務で利用している実データなどを教材に使ったオリジナルのテキストで授業を行うコースもある。」
 これからの大学は、「教養」よりも「実践的に使える能力」のある学生を育てるべきだと思っていたので、このINIADのコンセプトや学習内容は、とてもいいなと感心してしまいました。
 今後は「イノベーション」を起こせる能力がますます重要となっていくと思われますが、日本にはその環境が貧弱だったようです。坂村さんは次のように指摘しています。
「オープンなIoTを上手に活用すれば、アイデア次第で、他らしい需要を生み出すような画期的な製品やアプリを生み出せる可能性がある。しかも機器を作ったメーカーにとっては、まったく交流のなかった外国のソフト会社が便利なスマホアプリを開発してくれて、そのため自社製品の売り上げが上がっていくという可能性もある。
 ところが日本の多くのメーカーは、自社の技術やノウハウが社外に流出することや、ユーザーに対する動作保証の問題を慎重に考えすぎ、こういった取り組みにとても閉鎖的だった。(中略)しかし、これからの市場で競争していくには、もっと前向きに考え、オープンなIoTの考え方で製品を開発していく時期に来ている。」
「日本は特に「変えることを恐れる」傾向が強い。それは責任感が強くて不安に弱い国民性から、変えたことの心理的負担を取りたくないということなのかもしれない。しかし技術が世界を大きく変えている現在、「変える勇気」の必要性はますます高まっていく。未来の世代のために、変えることによるリスクを引き受けても、先に進むべき時が来ている。」
 ……うーん、耳が痛い指摘ですね……。
 イノベーションはどのように学べるんでしょうか。坂村さんは次のように語っています。
「イノベーションに教科書はないということは、本書の始めから言い続けてきた。イノベーションに成功するためには回数を増やし「何度も何度も挑戦する」というやり方しかない。実はもう一つよく言われるのが、ケーススタディ。成功したもの、失敗したもの、何かヒントになりそうなものを事例として見ていくということだ。」
「イノベーション力」は簡単に学べる能力ではありませんが、この本には、そのための参考情報として、「AI」「プログラミング教育」「フィンテック」「電子政府」のケーススタディが載っていました。
 また「ベーシックインカム」を活用した次のような未来社会のアイデアも、とても面白いと感じました。
「堅実な生産はAIと一部の人間に任せ、不確実なイノベーションのためにベーシックインカムで支えられたその他大勢が日々チャレンジをくり返す。そしてイノベーションを達成できた人が財源を支える。ごく少数しか成功しないが、成功すれば大きく、その儲けで後進のチャレンジャーを支えるというのは、考えてみれば芸能事務所のようなモデルだ。社会全体が芸能事務所のようになる――非現実的に思える未来だが、ありえない未来ではない。」
「イノベーション」には失敗がつきものですが、それを恐れずにチャレンジする人をつくるために「ベーシックインカム」を使う……とても現実的な良いアイデアだと思うのは、私だけでしょうか。
「イノベーションはいかに起こすか」を深く考察している本でした。未来の教育や社会、AIやIoTを考えるために、とても参考になると思います。ぜひ読んでみてください。
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 坂村さんの他の本『角川インターネット講座 (14) コンピューターがネットと出会ったら モノとモノがつながりあう世界へ』に関する記事もごらんください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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