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第1部 本

ビジネス・経営

良い戦略、悪い戦略(ルメルト)

『良い戦略、悪い戦略』2012/6/23
リチャード・P・ルメルト (著), 村井 章子 (翻訳)


(感想)
「戦略の大家」のルメルトさんが、「良い戦略」と「悪い戦略」を教えてくれる本です。
「良い戦略は、組織が前に進むにはどうしたらよいかを明確に示す。難局から目をそらさず、それを乗り越えるための指針が示されている。「いま何をすべきか」がはっきりと実現可能な形で示されていない戦略は、欠陥品だ。」
「良い戦略は、目標やビジョンの実現以上のことを促す。良い戦略は、直面する難局から目をそらさず、それを乗り越えるためのアプローチを提示する。状況が困難であるほど、行動の調和と集中を図り、問題解決や競争優位へと導くのが良い戦略である。」
「良い戦略とは最も効果の上がるところに持てる力を集中投下することに尽きる。短期的には、手持ちのリソースを活かして問題に対処するとか、競争相手に対抗するといった戦略がとられることが多いだろう。そして長期的には、計画的なリソース配分や能力開発によって将来の問題や競争に備える戦略が重要になる。いずれにせよ良い戦略とは、自らの強みを発見し、賢く活用して、行動の効果を二倍、三倍に高めるアプローチにほかならない。」
 ……「良い戦略」とは、「行動」に直結するものでなければならないようです。
 個人的には「戦略」というのは、「目標」や「進むべき方向」を示すもので、「行動」の方は「戦術」ではないかと考えていたのですが、ここで言う「戦略」は「戦術」と表裏一体のもののように感じました。
 耳が痛かったのは、「悪い戦略がはびこるのはなぜか」。
「悪い戦略がはびこるのは、分析や論理や選択を一切行わずに、言わば地に足の着いていない状態で戦略をこしらえ上げようとするからである。その背後には、面倒な作業はやらずに済ませたい、調査や分析などしなくても戦略は立てられるという安易な願望がある。(中略)悪い戦略はまた、お仕着せの穴埋め式テンプレートからも量産されている。空欄にビジョンやミッションや戦略を書き込んでいく、あれだ。このやり方では、自社が直面する状況をみきわめ、どう対処するか考えるという作業をせずに、手順に従っているうちにお手軽に「戦略」ができあがっていく。」
 ……うーん、確かに……。「戦略」というのは、「知のフロンティアの拡大」とか、「人と地球にやさしい社会への貢献」とか、その企業が出来る(期待される)社会的に望ましいビジョン(会社概要パンフレットの先頭にのせられるもの)のような気がしていました……。
 悪い戦略には、次のような特徴があるそうです。
1)空疎である
2)重大な問題に取り組まない
3)目標を戦略ととりちがえている
4)まちがった戦略目標を掲げる
 それに対して、良い戦略には次のような基本構造があるのだとか。
1)診断
2)基本方針
3)行動
 ……「診断」で現在の情勢や問題をしっかり把握した上で、どう対処するかの「基本方針」を示し、具体的に何をすべきかの「行動」を明確にする……ここまでやらなければ「良い戦略」にはならないそうです。
 とても参考になったのが、「無人の月面探査機「サーベイヤー」の開発」の事例。月面の状況がどうなっているのか誰も知らないので、どんな探査機を作ったらいいのか分からず技術者たちが途方にくれているところで、研究主任のフィリス・ブワルダさんは、月面に似ていると思われる地球の環境から「月面の仮想モデル」を作ることで、技術者たちに「近い目標(設定条件)」を作ったそうです。
「どんなプロジェクトでも状況が完全に解明されているということはめったにない。このようなとき、リーダーは複雑で曖昧な状況を整理して、何とか手のつけられる状況に置き換えなければならない。だが多くのリーダーがここでつまずいてしまう。何に取り組めばよいのか曖昧なままにして、むやみに高い目標を掲げてしまうことが多い。「最後の責任は自分がとる」と言うだけでなく、近い目標を設定してチームが動けるようにすることがリーダーの大切な使命である。」
 ……なるほど、これが「良い戦略」なんですね。
 この本は「良い戦略」と「悪い戦略」について、事例とともに教えて(考えさせて)くれます。
 また「世の中の変化を察知するためのヒント」や、「戦略思考のテクニック」、「判断力の鍛え方」なども盛り込まれています。例えば「戦略思考のテクニック」では、1)カーネル(診断、基本方針、行動)に立ち返る、2)問題点を正確に見極める、3)最初の案を破壊する、などが詳しく説明されていました。「(脳内で)バーチャル賢人会議をする」という方法もとても参考になりました。
「戦略」を立てるのには「安直な道はない」ことを痛感させてくれる本でした。「戦略」に関わる仕事をしている方は、ぜひ一度読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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