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第1部 本

脳&心理&人工知能

VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学(ベイレンソン)

『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』2018/8/8
Jeremy Bailenson (原著), ジェレミー ベイレンソン (著), 倉田 幸信 (翻訳)


(感想)
 VR(仮想現実)はエンタテイメントだけでなく、医療、教育、スポーツの世界を一変させ、私たちの日常生活を全く新たな未来へと導いていく……VRの最新動向の紹介とともに、VRの可能性(威力と脅威)を心理学の視点から解き明かしてくれる本です。
 ゲームなどのエンタテイメントでの利用が進んでいるVR技術ですが、技術の進展がどんどん進んでいて、現在ではVR(仮想現実)内での体験を、脳が現実の出来事として扱ってしまうほどになっています。
 TVゲームには銃撃戦を行うなどの残虐なゲームがありますが、実はVRゲームにはこのようなものは少ないそうです。それはVRには「あまりにも現実感がある」から。VR世界で一日過ごすと現実と非現実の違いがわからなくなるほどなので、VRで一人称視点の暴力ゲームをプレイすると、相手が仮想人間だとわかっていても生々しい罪悪感を覚えてしまうそうです。……これ、分かる気がします。というか、今後もVRでは、残虐なゲームは製造してほしくありません。
 VRは人間にとてもリアルな「現実感」を与えるので、教育訓練の場では、凄い力を発揮するようです。たとえば「第1章 一流はバーチャル空間で練習する」では、VR空間でトレーニングを重ねたNFLのチームが勝率を上げた例を見ることが出来ます。相手チームの奇襲作戦をVRで経験することで、その奇襲作戦への対応に慣れることが出来るのです。
 このように、VRはとりわけスポーツの能力向上に役立てるのではないかと思います、それもオリンピック選手などの一流選手の限界を押し上げる場面で。オリンピックの金メダリストたちは、「それまで誰もやったことのない動き」を習得していかなければなりませんが、そんなもののコツは誰も教えてくれないどころか、手本すら見せてもらえません。でも、金メダリストの動きを機械学習したAI技術とVR技術を活用すれば、「人間に実行可能な動き」の範囲内で、「誰もやったことのない」動きを実際に見せることが出来ると思います。それをイメージ・トレーニングすることで、さらなる高みを目指す後押しが出来るかもしれません。例えばフィギュアスケートなどでは、数年前まで4回転ジャンプなど不可能だと思われていたのに、誰か一人が飛び始めたら、なぜか飛べる人が続々登場してきて、今ではメダルを取るのに4回転が不可欠な状況になりつつあります。人間には、ひょっとしたら5回転も出来る潜在能力があるのでしょうか? 選手の負傷リスクが高まりそうなので、いたずらにジャンプの回転数をあげるのには問題があるかもしれませんが、VRによる「限界の押し上げ」は不可能ではないかも……と思わされました。
 また医療分野でもVRの活用が進んでいるそうです。例えば重度のやけど患者は、治療で、どんな鎮痛剤も効かないほどの想像を絶する激痛を味わうそうですが、治療中の患者にあるVRソフトをプレイさせると、劇的に痛みが和らぎ、脳の活動にも明確な変化が見て取れたそうです。VRには人間の注意力を激しく奪い取る力があるので、仮想空間にいる間、患者は自分の肉体(痛み)すら忘れてしまうのだとか……驚異的ですね……。
 さらにVRは精神的治療でも威力を発揮しているようで、「第5章 二〇〇〇人のPTSD患者を救ったVRソフト」では、アメリカで発生した同時多発テロ後、PTSDに苦しむ患者への治療に使われた事例を見ることが出来ました。PTSDの治療には、トラウマの再現が有効なのですが、本人の記憶に頼る従来の手法では、あまり効果はなかったそうです。そこである専門医がテロ当日を緻密に再現したVRを作製し、患者を再度、九月一一日のNYに送り出したところ、患者の記憶が細かい部分まで鮮明に甦り、治療が進んだのだとか。
 このように「VR内での経験は、現実の経験と同様の生理学的反応を脳にもたらす」ので、人間にとって、メリットのある有効な機能を発揮することは間違いありません。
 その一方で、この「VR内での経験は、現実の経験と同様の生理学的反応を脳にもたらす」ことを悪用すると、誰かに「偽の記憶を植え付ける」などのことすら容易に行えてしまうという重大な懸念もあります。
 また「VRユーザーの身体や視線の細かな動きは、正確にデータ化できる」ので、「そこからその人の精神状態、感情、自己認識がダイレクトに読み取れる」という事実も、同じように活用と悪用の諸刃の剣となります。それも、致命傷を与えるほどの鋭さをもつ剣として……。
 この本を読んだことで、VR技術の最新動向とともに、それがもつ心理的効果を総合的・具体的に知ることが出来ました。ゲームなどのエンタテイメントでの利用が進んでいるVR技術ですが、使い方によっては、恐ろしいことが出来てしまうことを痛感させられました。
 現在、急速に進みつつあるVR技術は、今後、私たちの普通の生活の中に、どんどん入りこんでくることでしょう。より良い活用を行うため、いま何をすべきか考えるためにも、ぜひ多くの方に読んで欲しいと思います。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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