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第1部 本

ユーモア

タイタンの妖女(ヴォネガット)

『タイタンの妖女』2009/2/25
カート・ヴォネガット・ジュニア (著), 和田 誠 (イラスト),


(感想)
 時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在するウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し人類を導いていました。その計画で操られる最大の受難者は、全米一の大富豪マラカイ・コンスタント。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは……。神とは何か? 人はなぜ争い続けるのか? 戦いに意味があるのか? さまざまな問題を、シニカルかつユーモラスに投げかけてくる作品。1959年に発表された古い作品ですが、この小説自体が時空を超えている感じがするほどの傑作SFです。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 ウインストン・ナイルス・ラムフォードは、愛犬カザックとともに、火星近くにあった、ある「時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)」のまっただなかへ自家用宇宙船で飛び込んでしまった結果、波動現象として存在することになり、地球上でたまに「実体化」するという「神のような出現の仕方をする人間」になってしまいました(笑)。そして彼は、その後に起こる地球人と火星人との宇宙戦争の中で暗躍することになるのです。
 この「地球VS火星戦争」に至るまでがかなり長いので、これは「神」をSF的に解釈した作品なんだろうなーと勝手に想像していたのですが……驚いたことに、それだけでは、まったくありませんでした。宇宙戦争の終り方も、そもそもこれが始まった理由もぶっ飛んでいますが、中盤からの怒涛の展開に、驚かされっぱなし。物凄いSF小説です。
「人工知能」関連の専門書を読むと、たまにこの『タイタンの妖女』に言及しているものがあって気になり、2017年になって初めて読んだのですが、……正直言って驚愕させられました。これが、1959年に出版された作品って、本当ですか! ……もしかしたら、1959年当時よりも、2017年に読んだ方がずっと衝撃を受けるのかもしれません。というのも、宇宙戦争の真の黒幕、トラルファマドール星の生き物の「サロ」が、まさに人工知能ロボットそのものだから……。そしてトラルファマドール星にむかし住んでいた生き物、「彼らは信頼性がなかった。能率的でもなかった。予測がつかなかった。耐久力もなかった。おまけにこの哀れな生き物たちは、存在するすべてなんらかの目的を持たねばならず、またある種の目的はほかの目的よりもっと高尚だという観念にとりつかれていた。」と描写される生き物は、まるで人類のよう……。
 そして……「適者生存」が進化の原理なら、トラルファマドール星に起こったことは宿命のようなものかもしれないなー。それに地球人の心に影響を受けて錆びついてしまうほど傷つきやすいサロのような人工知能ロボットになら、「バトン」を渡しちゃってもいいのかなー、とまで思わされました……(涙)。
 とにかくあらゆる意味で「ぶっ飛んだ」傑作SFです。地球VS火星戦争の始まった意味もぶっ飛んでましたが、そもそもそれが仕組まれた真の理由に至っては、もう呆れる他ありません。ブラック・ジョーク満載☆ 笑いながら考えさせらもする「深い」小説。凄すぎです。このSF作品は、2017年のまさに今、一番「旬を迎えている」のではないかと思います。ぜひ読んでみて下さい。
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 ヴォネガットさんの他の本、『プレイヤー・ピアノ』、『スローターハウス5』、『ガラパゴスの箱舟』、『はい、チーズ』、『人みな眠りて』に関する記事もごらんください。

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