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第1部 本

ビジネス・経営

奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ(セムラー)

『奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ』2006/1/24
リカルド・セムラー (著), 岩元 貴久 (翻訳)


(感想)
 企業なのに組織図がない、階級がない、人事部がないから社員をコントロールするしくみもない、トップには戦略がない(!)……それなのに、売り上げは6年間で3500万ドルから2億1200万ドルへと急成長、社員の離職率はゼロに近いという「奇跡の経営」をしている会社(ブラジルのセムコ社)のCEOのセムラーさんが、その経営哲学と方法論を教えてくれる本です。
 正直に言ってこの本を読み始めた時は、「組織階層がなく公式の組織図が存在しない」「ビジネスプランもなければ企業戦略、短期計画、長期計画もない」「会社のゴールやミッションステートメント(企業理念)、長期予算もなし」「標準作業を定めていなければ業務フローもない」「作業員を監視・監督していない」……というあまりの非常識っぷりに、内心では、(従業員を信頼しているから何のコントロールもしないっていうのは、なんかカッコよさげだけど、本当のところは、もの凄い放漫経営なんじゃないの?)と疑いを持ってしまいました(汗)。
 セムコ社では、「社員は、自分の興味と直観に基づいて、仕事やプロジェクトを自由に選択できる」だけでなく、なんと自分の給料の金額すら自分で決められるのです。こんな会社なら、誰でも入りたいよなーと思いながら読み進めていくと……実は、「自己管理」が出来る社員たちを「信頼しきる」ことで「コントロールしない経営」が出来るのだなということが分かってきました。
 セムコ社の募集広告は、「現在、セムコ社には空いているポジションはありません。でも、とにかく応募してみて下さい。来社いただき、会社のためにあなたができること、そして、どうやったら会社が、そのポジションをつくり出せるのかご提案ください」だそうです。つまり、どんな仕事をするのかは、応募前に自分で決めてアピールするのです(汗)。もっとも新人については、「社内起業化制度(ロスト・イン・スペース)」という「入社後一年間、新入社員に社内の業務を好きなだけ経験してもらう」などの措置もあるようですが……。
 そして「自分で働く時間を決められる(フレックスタイム)」は、なんとアセンブリーラインにも導入されています。それでも業務にはなんの支障も出ていないそうです。「働いているのは、立派な大人です。その大人である作業員が、どうして自分たちの仕事を危うくするような行為をするというのでしょうか?」とのことですが、社員の勤務時間の変動などの希望に応えるために、会社はパートタイマーの応募者のデータベースなどの仕組み作りも行っているそうです。
 同じように給料についても、法外な金額を要求する社員はいないようです。
 凄いなあ、と思いましたが、実はセムコ社のこの仕組みは、「柔軟なムラ社会」によって成り立っているのではないかと気がつきました。セムラーさんのこの経営は、人間の特性を把握しているからこそ、うまくいっているのでしょう。その基本が、「人はより生産的に、目標的に向かって働き、家族を養い、未来を築くようにできているのです」にあることは確かですが、これがうまく運営されているのは、「職場の仲間がお互いに注意し合うことは、上司への報告を徹底したり、監査を厳しくするのと同じ効果がある」からで、この「オープンコミュニケーションによる共有文化」があるからこそ、「ありのままの自分達とその行動に基づいて、組織やビジネスを前進させる」ことが出来るのだと思います。
 しかも「社員を10人ずつのグループに分けて編成すれば、それぞれのグループ内で各自が自らを管理できるようになります。」としていて、大きなグループ編成をしていません。それは「互いを理解し全体を把握できるサイズで構成するべき」だから……つまり小さなムラ社会の連合体として会社が成り立っている……ある意味、お互いの牽制と協調があるからこそ、うまく運営されているのではないでしょうか。
 ちなみに法外な金額の給料を要求する社員がいないのも、会社がその算定基準として、従業員に、「業界の平均給与情報」、「社員の給与水準と仕事の価値との比較」、「会社の業績から業界平均より多く支払えるかの判断」を提示するとともに、「自分の所属する部署の予算の範囲内で考える」よう勧めているからなのでしょう。これによって、社員は「最も望ましい報酬を得るには、自らの給与と会社の収益の両方を最大化すること」だと、自然に理解するようになっていくのです。
 この会社は、自立する社員たちが、自分たちのやりたい時間に自分の好きな仕事をすることで、自らの能力を最大限にひきだしストレスなく生産性を上げています……本当に、これこそが「コントロール」しない「奇跡の経営」の秘訣なのだということが理解できました。
 それでも、この方法はあまりにも非常識なので、現実に自分の会社もこのように運営していこうと考える会社は、おそらく多くはないでしょう。この方法を採用すると、自分の会社がどんなことになるのか想像もできないので、大企業ほど尻込みしそうな経営方法だと思います。
 でも……社員をコントロールしないだけでなく、新規事業への進出や長期計画などの企業の活動方針も、すべて「社員に丸投げ」しているように見えるこの方法は、「みんなの知恵を結集する」ことが出来るやり方だとも言えますし、激変する経済情勢に、アメーバのように柔軟に対応できるという意味で、本当に画期的な「ミライの会社」のようにも思えます。セムラーさんは、「セムコ社は現在、おそらく10社ほどの事業会社を持っています。ただ本当のところはわかりません。なぜなら常に買収したり売却したりしているからです。」と言っていますが、このような状況も、ムラ社会連合アメーバ会社なればこそなのでしょう(笑)。
 いろいろな意味で凄く参考になる「奇跡の経営」方法を教えてもらえる本でした。ぜひ読んでみてください☆
 最後に、本書の中にあった数多くの印象的な文章のなかで、心に残ったもののごく一部を紹介させていただきます。
「全面的な意見の一致がみられないときは、問題を未解決のままにしておく」
「リーダーシップとは、組織の考えに同意しているにもかかわらず、それを実行に移せない個人に対して、基本的な考え方を注入し、それを行動に移すためのプロセスを提供すること」
「新しいことにチャレンジすることによるリスクを避けたいのは、理解できます。しかし、そうすること自体が、リスクを背負い込むことになるのです。」
「わたし達は、とんでもない状況においても、それを乗り越えることのできる能力があります。このことを知っていれば、どんな場所でも、また何をやってもすばらしい成果を成し遂げることができるのです。」
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 セムラーさんは、他にも『セムラーイズム 全員参加の経営革命』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり”』、『DREAM WORKPLACE(ドリーム・ワークプレイス)――だれもが「最高の自分」になれる組織をつくる』、『社員の力で最高のチームをつくる――〈新版〉1分間エンパワーメント』など、経営や組織運営を考える上で参考になる本は多数あります。

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