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第1部 本

脳&心理&人工知能

ロボットは東大に入れるか(新井紀子)

『ロボットは東大に入れるか (よりみちパン! セ)』2014/8/10
新井紀子 (著)


(感想)
 ロボット(人工頭脳)の飛躍的進化・深化とその最前線は、人間にどのような変革を迫るのかに関して、人工頭脳「東ロボくん」に東大合格レベルの力をつけさせるプロジェクトを通じて考察する本です。
 第一章は、新井さんが各地の学校で行っている「ロボットは東大に入れるか」と題した講演の様子。第二章は、人工頭脳「東ロボくん」が代ゼミの「全国センター模試」、「東大入試プレ」模試を受けたときの結果と分析。そして第三章は、このプロジェクトに関するQA。学生さんとの話し合いの様子がそのまま描かれているので、説明がとても分かりやすく、人工知能に興味がある一般の人が入門書として読むのにもふさわしいと思います。
 さて、「ロボット(人工知能)は東大に入れるか」という問いかけで、すぐに考えたことは、「知的レベル」という意味では、おそらく「計算系(数学・物理)」、「知識系(歴史・化学)」は十分なレベルで、「外国語系(英語)」は翻訳ソフトのレベルから考えると、そこそこいけるだろうし、最低点を取るのは「意味理解系(国語)」だろうな……だったのですが、意外なことに、この「国語」が、実は、「全教科」に渡っての人工頭脳「東ロボくん」一番の問題点だったそうです。
 というのも、例えば「物理」の場合でも、問題を解くための数式を適用する前に、まず「問題の意味を理解する」ことが必要だからです。しかも物理の場合は、問題が「文章」と「図式」の両方で構成されていることが多いので、図式の理解も必要になるという二重の困難があります。
 ……ああ、そうなのか!と思いました。
 各教科の合格戦略を読むと、「人工知能(AI)が得意な事、苦手な事」がすごくよく分かります。苦手だろうと想像していた国語では、思った以上に健闘していましたが、これは「意味を理解して解答した」というよりは、「受験の合格テクニック」を駆使して、「たぶんこの答えの確率が一番高い」のを選んでいたようです。例えば、「選択肢の類似度を計算することで、選択肢から仲間はずれの選択肢を1つ排除する」とか「根拠領域と選択肢の間で共通する文字数を数える」とか……。
 うーん、それって、どうなの?と疑問を感じなくもなかったのですが、「見かけ上問題ない程度に」正しい答えを返してくれば、人工知能内でどのように解決していたとしても、「正しく理解した上で解決した」と判定しても良いのかもしれません。
 でもやっぱり本来は、文章の意味を本当に理解すべきなのだろうと思いますが……。
 新井さんも「大学入試を解くうえで、東ロボくんが克服しなければならない最大の問題は曖昧さや常識だと思います。曖昧さには、「岡山と広島に行った」と「岡田と広島に行った」の「と」の意味は何だろう、と考えることから始まって、小説の主人公の気持ちを察するところまで、さまざまなレベルがあります。」も言っています。
 この「岡山と広島に行った」の例では、大多数の日本人は、「岡山と広島に行った」という文章の場合は両方が地名だと解釈し、「岡田と広島に行った」という文章では岡田という人と広島という地に行ったと解釈する、というのが「常識的判断」だと思います。でも、どうしてそう思うのか?と考えてみた時、「言葉」は人間の脳の中では、単純に辞書のようにアイウエオ順に並んでいるのではなく、ある「意味空間」のようなものを構成しているからだ、と感じました。岡山と広島は近接県の県庁所在地なので地名としての連想距離が近く、岡田は地名よりも人名として使われる方が多い、というのが常識だからでしょう。
 さらに、自分の脳内でこれらの常識はどうして獲得されたのか?を考えると、いわゆる「ディープラーニング」に近い方法、つまり「何度もそのような場面で聞かされた・読んだ」からだろうとも思います。そして人間の脳も「シナプス結合」「信号伝達」などかなり機械的(?)な構造で構成されている以上、これらの「常識」も、いつかは人工知能で再現可能なのではないかと思います。ということは……人工知能が、真の意味で「国語を理解して解く」ことが出来る日も来るのかもしれません。
 2013年の「東ロボくん」の「全国センター模試」による合格判定結果では、東大は合格できませんでしたが、国公立大学(芸術系)1大学や有名私立大学ならば、すでに合格レベルだったそうです(!)。凄いですね。コンピュータは、「芸術系は苦手」と勝手に思い込んでいましたが、もしかしたら芸術系でも楽器演奏系ならマジで結構いけるかも?と思ってしまいました。正確なリズムを求められるパーカッショニストなんて、「東ロボくん」の特技にふさわしいかも?(もっとも「全国センター模試」には芸術系の問題はなかったのですが……。)
 さて、この本の最終章では、「コンピュータが苦手なのは、イラストを理解したりする人間ならばなぜか自然に理解できる問題」だということから、新井さんは、「人間らしい仕事とは、人間が学校に行かなくてもできることなのではないか」と言っています。そして「学校の根本的見直しが必要になるのかもしれない」と。この意見には共感を覚えました。今後、人工知能は飛躍的発展を遂げることでしょう。ただ……必ずしも「汎用人工知能」である必要はないのではないか、と思います。人間は人間の得意なことを伸ばす教育をして、人工知能は人工知能の得意なことを伸ばす教育をする、この二つの知能が棲み分けることで互いに助け合う未来が、最も現実的で望ましいのではないでしょうか。
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 新井さんの他の本『AIvs.教科書が読めない子どもたち』に関する記事もごらんください。
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 新井さんは、他にも『生き抜くための数学入門』、『経済の考え方がわかる本』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『ルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実』、『ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ』、『われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る』、『人間に勝つコンピュータ将棋の作り方』、『Java将棋のアルゴリズム―アルゴリズムの強化手法を探る』など、人間と人工知能との勝負に関する本も多数あります。
 なお脳科学やIT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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