ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

脳&心理&人工知能

神経ハイジャック(リヒテル)

『神経ハイジャック――もしも「注意力」が奪われたら』2016/6/21
マット・リヒテル (著), 小塚一宏 (その他), 三木俊哉 (翻訳)


(感想)
 2006年のある夏の日、米ユタ州に住む青年レジー・ショーが、運転中の「ながらスマホ」によって衝突事故を起こし、2人の優秀なロケット科学者が命を落とした……。この本は、この悲惨な事故、警察の捜査、そして判決からレジー本人の贖罪までのドラマを、膨大な取材活動をもとに丹念に追ったものです。
 並行して、認知心理や脳神経科学者たちによる、人間の注意力、テクノロジーが脳に及ぼす影響に関する研究結果も紹介されています。そこで明らかにされたのは、いまや日常にすっかり根づいている便利な各種のデバイスが、人間の奥深い社会的本能に作用し、刺激を求める脳の部位を疲弊させ、限りない衝動、さらには依存症をも引き起こすという事実……。
 この本の著者のリヒテルさんは、不注意運転のリスクと根本原因を明らかにし、広く警鐘を鳴らした一連の記事でピュリツァー賞を受賞しています。
 500ページ以上もある、すごく長い本です。交通事故にまつわる人物が、次々に登場してきて、しかも事故と何の関係があるのかもよく分からないまま、彼らの長い人物プロフィールを読まされるので、正直に言って最初のうちは読み進むのが少し苦痛でした(汗)。それでも、この悲惨な事故がなぜ起きたのかを明らかにすることに執念を抱く捜査官や、正義を貫こうとする関係者たちの丹念な描写を通して、しだいに明らかになっていく事故の詳細な状況、並行して紹介される「人間の注意力」に着目した脳科学の研究成果に、どんどん引き込まれていってしまいます。
 最初のうち私は、運転中にメールをしていて(!)、優秀なロケット技術者二人を心ならずも惨殺することになってしまった19歳の青年レジーを許せない気持ちでいっぱいでしたが、状況が明らかになっていくにつれ、確かに彼は不注意だったけど、これは誰でも起こし得る恐ろしい事故だったのだと思うようになりました。日本の道路は混んでいて狭く運転には細心の注意が必要ですが、これは道路が広くて車通りも少ないアメリカの道で起きた事故です。しかもこの事故当時、「ながらスマホ」の危険性は広く知られていなかったし、「ながらスマホ」による交通事故の判例もほとんどなかったので、法律で禁止されてもいなかったのです(かなりのアメリカ人が、「ながらスマホ」運転の経験があるそうです)。
 でも、「運転しながらスマホを操作すると、衝突リスクは6倍に(飲酒運転は4倍)」、「歩きながらスマホを操作すると、視野が20分の1に」、「ながらスマホをすると、操作を終えてからも15秒間は注意散漫・記憶曖昧に」などのことが分かってきています。またプリンストン大学の実験では、「ある刺激に集中すると、それ以外のことがお留守になる」ことも明らかにされています。……これ、本当に実感として分かります(汗)。
 ところで、道を歩いている時に、「歩きスマホ」をしている人をよく見かけることがあります。ある時、人通りの少ない道の向こうから、ミニスカートの若い女性がふらふら歩いてきて、(具合が悪いのかな?)と心配になって眺めていたら、彼女が「歩きスマホ」をしていることに気づき、そのあまりの無防備っぷりに衝撃を受けたことがあります。可愛い顔立ちの人だったので、本当に心配になるほどでした(汗)。「歩きスマホ」は絶対にやめてください、遠くからでも夢遊病のような状態にあることが、まる分かりで、色んな意味で危険です。きれいな若い女性のみなさんは特に(汗、汗)。
 えーと……あ、そうそう「運転中スマホ」のことでした。
「歩きスマホ」も「運転スマホ」も、「ネット依存症」の一つなのだと思います。もちろん私自身もネットやスマホを活用していますが、特にスマホには、「時間を有効に活用したい」という気持ちから、スキマ時間ができたり気分転換したくなったりすると、無意識に手を伸ばしてしまっています(汗)。ちょっと怖いことですね……(汗、汗)。
 さて、「運転スマホ」で悲惨な事故を起こしたレジーさんは、決して注意力散漫な人間ではなく、注意力のMRIテスト結果では、むしろ高い集中力の持ち主だということが明らかになりました。このことは、彼が親友にも信頼され周囲の人々にも期待されていた好青年だということとも合致しています。私たちの脳は「過大なマルチタスクを命じられると、オーバーロード状態になる」のだそうです。確かにそうですよね……。
 もっとも研究によると、「パフォーマンスをあまり低下させることなく、ふたつのタスクに取り込める人(マルチタスカー)」も、少数ながら存在しているようです。神経効率が飛び抜けて高いらしいのですが、羨ましい限りです。それでも私たち「普通の人間の注意力には限界」があることは確かなので、気をつけたいと思います。
 この本は、「ながらスマホ」による事故の詳細だけでなく、最新の脳科学研究も紹介してくれるので、本当に参考になることがいろいろありました。最後には、小塚一宏さんによる、運転中の「ながらスマホ」の危険性に関する解説や提言もあります。車を運転する方はもちろんのこと、すべての方に読んで欲しい本です☆
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 別の作家の本ですが、『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』、『コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか』など、脳科学関連の本は多数あります。
 なお脳科学やIT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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