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第1部 本

脳&心理&人工知能

〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義(ガザニガ)

『〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義』2014/8/28
マイケル・S. ガザニガ (著), Michael S. Gazzaniga (原著), 藤井 留美 (翻訳)


(感想)
 分離脳(てんかん治療のために右脳と左脳をつなぐ脳梁を切断した状態)の研究で広く知られる神経科学者のマイケル・ガザニガさんが、「神経科学と自由意志」を主なテーマとして行った「ギフォード講義」をもとにまとめられた本です。
 本書の構成は以下の通り。
第1章 私たちのありよう
第2章 脳は並列分散処理
第3章 インタープリター・モジュール
第4章 自由意志という概念を捨てる
第5章 ソーシャルマインド
第6章 私たちが法律だ
第7章 あとがきにかえて
 まず第1~3章では、これまでに得られた神経科学の知見と自身の研究について解説しています。そしてそれを踏まえて第4章では自由意志と決定論について論じ、第5章で心の社会性や道徳の進化を考察、そして最後の第6章では、神経科学と司法に関して考察しています。
 個人的に、もっとも参考になったのは、「第1~3章」で解説される神経科学研究の歴史と、分離脳研究の部分。例えば、分離脳患者を対象におこなったさまざまな実験を通して、脳の右半球と左半球の働きの違いに関する研究で明らかになってきたのは、脳の右半球は「事実を最優先させる」のですが、左半球(インタープリター)は「ストーリーを組み立て、それに適合するものは受け入れるが、そうでないものは放り出す」という傾向があるそうです。
 最新の神経科学では、意識は総合的な単一のプロセスではないというのが定説なのだそうです。意識には幅広く分散した専門的なシステムと、分裂したプロセスが関わっており、そこから生成されたものをインタープリター・モジュール(左脳)が大胆に統合している、のだとか。そしてこのシステムが、自分が「自分である」という感覚を与えてくれるそうです。なるほど……。
 さて、この本の中心テーマは「自由意志」なのですが、第4章のタイトルが「自由意志という概念を捨てる」であるように、「自由意志」というのは幻想ではないのか?とガザニガさんは問いかけてきます。
 え? 私たちは朝食に何を食べようとか、今日はどの仕事をどの順番でやらなければ、とか自分の「自由意志」で決めているんじゃないの?と思ってしまいましたが、この本を読んで……正直、なんだか分からなくなりました(汗)。私たちの脳の中には、中央指令センターなどなく、並列分散処理を行っているだけなのだそうです。それなのに何かを「決めた」と感じているのは、脳の左半球のインタープリターがつじつまのあうストーリーを紡ぎ出してしまうからなのだとか……本当にそうなのでしょうか? いまだに分かりません(汗)。
 この本の第4章以降は、これまでの脳研究成果を踏まえた上で、神経科学者のガザニガさんが考察を展開しているので、これが定説だというわけではないようです。それでも「第6章 私たちが法律だ」で論じられている裁判と神経科学の関わりについては、真剣に考えていく必要があると感じました。「脳スキャン画像を裁判の証拠にすべきではない」という意見についても、妥当だと思います。もっともこれはアメリカでの裁判の話なので、そのまま日本の裁判に適用できるわけではありませんが……。
 いろいろなことを考えさせられた本でした。脳科学に興味のある方はぜひ読んでみてください。
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 ガザニガさんは、他にも『右脳と左脳を見つけた男 - 認知神経科学の父、脳と人生を語る』、『人間らしさとはなにか?―人間のユニークさを明かす科学の最前線』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『〈わたし〉は脳に操られているのか : 意識がアルゴリズムで解けないわけ』、『その〈脳科学〉にご用心: 脳画像で心はわかるのか』などは、脳科学研究の問題点を指摘する本です。
 なお脳科学やIT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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