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第1部 本

脳&心理&人工知能

CIA洗脳実験室~父は人体実験の犠牲になった(ワインスタイン)

『CIA洗脳実験室~父は人体実験の犠牲になった~』2010/4/27
ハービー・M・ワインスタイン (著), 苫米地 英人 (翻訳)


(感想)
 CIAが資金を提供し、カナダで行われた洗脳実験プログラムの実験台にされた父親が人格的に一変し、経営していた工場を失い苦悩しながら老化していくのを見続け、絶望の中で精神科医となった息子が告白する衝撃のノンフィクションです。
『CIA洗脳実験室』というタイトルから、「記憶の捏造や消去の方法」に関するものかと恐怖(と好奇心)を抱いてしまったのですが(汗)、CIA機密プロジェクト「MKウルトラ」の一環として資金提供を受けたC医師によって行われた洗脳的な治療によって、精神的肉体的に壊された人々の状況と、法廷闘争などの戦いを描いたものでした。
 とても恐ろしかったのは、実験台にされた人々は、「治療」と信じて、実際に治療代を支払って実験(治療)を受けていたことです。ひょっとしたらC医師本人も、治療と思い込んでいたのかもしれないとさえ思ってしまいました。
 著者のワインスタインさんの父親は、腎臓結石の検査中に窒息感を覚え、不安になって、マッギル大学付属アラン記念研究所の著名な精神医学者C医師を訪れ、そこでさまざまな試薬の処方、ショック療法、感覚遮断、強制睡眠などの非人道的な洗脳実験的治療を受けて、しだいに精神的肉体的に壊されていきました。(なお、このケースでは薬が多用されましたが、恐ろしいことに、「洗脳」は「薬なし」でも行えるようです。)
 C医師は、他にも何人もの人に、このような「治療」をしていたようです。一緒に集団提訴した人々は九人、その中には下院議員の妻まで含まれていました。
 中でも許しがたいと思ったのは、神経精神病学の専門家をめざしていたMさんのケース。精神科医として働いていた彼女が、さらに専門性を高めようと考えてC医師の研究所を訪ね、フェローシップを申し出た時、C医師は、Mさんが「神経質」そうだから、申し出を検討する前に診察したいと言って入院(有料)させました。そこで電気ショックやさまざまな薬物の治療(実験)を施したのです。
 そもそも病気ではなかったと思われる彼女を実験台にしたのは、いったいなぜなのでしょう。それもたったの十一日間の入院で、ページ=ラッセル電気ショック療法や、さまざまなバルビツール剤、ソラジンなどを用いたデパターニングの実験対象とされ、精神的肉体的に深刻な状況へ落ち込んでしまったのです。この本の中では、その理由は明かされていませんが、もしかしたら、彼女が「健康体」だったから、理想的な実験対象に見えたのではないでしょうか。薬物をあまり使ったことがないと思われる彼女からは、きれいなデータが得られるのではないかと……。彼女が母子家庭で育った娘だということも、「理想的実験対象」の一因だったのかもしれません。このケースでは特に、C医師の人間性を疑わずにいられませんでした。
 ところで病気になって入院した時、私たちは、医師によって危険な薬物を投与されるとか、危険な実験に参加させられるとは夢にも思わないと思います。まして治療費も支払わされているのに……。もしも自分が彼らの立場だったら、どう被害を防げばいいのだろうと考えて……防ぎようがないだろうと思って背筋が凍りました。この本を読んで、病院嫌いと薬嫌いにいっそう拍車がかかってしまいました(汗)。
 それでも万が一、このような目に合わされたことに気づいた場合は、泣き寝入りなどせずに、勇気をもって裁判を起こし、このように本を書いて一般の人に知らせるべきなのだと思います。
 なぜなら、人間には善性と悪性の両方があり、すべての医師が自ら高い倫理観を持ち続けてくれることに、期待してばかりはいられないからです。彼らに常に高い倫理観を持つよう促していくためには、残念なことですが、被害者となった人の告発や裁判などの力を使う必要もあるのではないでしょうか。このような裁判を起こすことには覚悟と費用が必要ですし、妨害や嫌がらせにも耐えなければならないとは思いますが……。それでも、たとえ裁判に勝つことができなくても、不正をなくそうとする戦いを示すことが、結局は社会のためになるのだと思います。
 医学は、さまざまな病気にかかった患者の治療経験を積み重ねることで発展してきました。逆に言うと、患者がいなければ、薬の効き目を試すことは出来ず、「治療」が出来ないということでもあります。そう考えると、治療の真の目的が、患者のための病気の治療ではなく、患者を使った治療実験にすり替わる危険性が、潜在的には常にあるのではないかと思われます。
 治療が困難な病気にかかってしまったら、新薬の実験のために患者が自ら志願して「治療実験」を受けるというのは崇高なことだと思います。でも、志願をしない患者に勝手に「実験」をすること、まして病気でもない人を騙して「実験」することは、決して許されないことだと思います。
 最後に、医師の職業倫理について書かれた宣誓文「ヒポクラテスの誓い」の一部をあらためて以下に記します。
「私は自身の能力と判断の限り、患者を助ける治療法を用い、傷つけ害を与える治療法を決してとらない。依頼されても人を殺す薬を与えない……」
   *    *    *
 この本の翻訳者の苫米地さんは、他にも『思考停止という病』、『もうこれ以上、人間関係で悩まない極意 ─今こそ、「縁起人」として生きろ。』など多数の本を出しています。

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