ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

脳&心理&人工知能

心の社会(ミンスキー)

『心の社会』1990/7
Marvin Minsky (著), マーヴィン・ミンスキー (著), & 1 その他


(感想)
 心はどうはたらくのか?という問題に革命的な回答を与えている本です。
 この本には、人工知能技術の基礎を築いた中心人物の一人、ミンスキーさんが長い間練りに練った「人間の知能」についての新しい考え方が示されています。一般の人にも分かりやすいよう、論文集ではなくエッセイ集という感じにまとめられているそうですが……確かに「分かりにくい」わけではないのですが、一つ一つのエッセイに深い内容がぎっしり詰まっている感じで、すごく読み応えがあります。長大なエッセイ集なので、本もずっしり重いですし(汗)……。1990年発行の本ですが、「心の働き」を二十年近く研究してきたミンスキー教授の研究が集大成されているので、人工知能技術の基礎となった考え方を知る上で、現在(2016年)でも、とても参考になる本だと思います☆
 さて表題の「心の社会」とは、「一つひとつは心を持たない小さなエージェントたちが集まってできた社会」を意味しています。1990年当時、この考え方はすごく革命的だと受け止められました。
 例えば、のどが渇いている時に、「紅茶の入ったカップを取りなさい」という言葉を聞くと、心のエージェントは次のように反応します。
・つかむことのできるエージェントたちは、カップを持っていたい。
・平衡をとることのエージェントたちは、紅茶をこぼさないようにしたい。
・のどがかわいていることのエージェントたちは、紅茶を飲ませたい
・動かすことのできるエージェントたちは、口もとにカップを持っていきたい。
 このように、心のエージェントたちは、一つひとつをとってみれば、心とか思考をまったく必要としないような簡単なことしかできません。それなのに、こうしたエージェントたちがある特別な方法でいろいろな社会を構成すると、本当の知能にまで到達することができるのです(この場合は、紅茶を飲んで喉の渇きをいやすことができるわけです)。
 なるほど、「心のはたらき」について、このような研究アプローチもあるのだなあと考えさせられました。ミンスキーさんは、数学や物理学の考え方(単純化・細分化)を、心理学へ応用してみせてくれたのです。科学物質からなる脳細胞の働きで、私たちの「心」が働いているのだから、心も「心を持たない小さなエージェント」の協働と受け止めることができるのでしょう。
 そして科学的な方法(証拠に基づいて理論を作るという方法)によって、心を研究する(仮説を立て、考え抜いた実験によってその仮説をテストし、考えを整理し、再び仮説を立てる)という具体的な方法も示してくれました。
 こうしてコンピュータを使った人工知能研究がぞくぞく行われることになり、現在に至っています。
 さて、小さな脳細胞の複雑なネットワークからなる人間の脳は、自己学習で知識を学ぶだけでなく、新しい環境でもすでに学んだ知識を応用し、未来を推測するなど、本当に驚異的な能力があります。今後、これを実現できる人工知能が本当に出来るかどうかは分かりませんが、少なくとも、2016年現在、コンピュータの「計算能力」だけでなく「知能的な能力」も、1990年当時から比べると飛躍的に向上していることは間違いありません。人間の知能のコピーは出来なくても、機械ならではの知能を向上させてきたので、人工知能研究は素晴らしい成果をあげてきたと思います。
 今後も、人工知能研究の成果が、機械の性能の向上とともに、人間の認知症などの脳機能障害の治療や生活支援に役立てられるよう期待したいと思います。
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 ミンスキーさんのこの本は絶版になってしまったようですが、ペーパーバック版の『Society Of Mind (A Touchstone book)(英語)』などの本があります。また、この本より新しい『ミンスキー博士の脳の探検 ―常識・感情・自己とは』という本もあります。

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