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第1部 本

脳&心理&人工知能

唯脳論(養老 孟司)

『唯脳論 (ちくま学芸文庫)』1998/10
養老 孟司 (著)


(感想)
 脳の法則性という観点からヒトの活動全般(文化や言語、意識など)を捉え直した知的エッセイ集です。
「唯脳論」とは、ヒトの活動を、脳と呼ばれる機関の法則性という観点から、全般的に眺めようとする立場だそうです。唯脳論は、ヒトとゴリラの類似と差異とを説明したり、ヒトの中にある差異を説明したりするもので、基本的な考え方の違い、たとえば「神学論争」などについても考察するものだとか……この本は、そういう観点から、文化や伝統、社会制度はもちろん、言語、意識、そして心など、あらゆるヒトの営みについて考察しています。
 養老さんは解剖学が専門なので、この本には、脳の解剖図や構造図なども数多く掲載されていますが、それだけでなく、言語や睡眠、意識など心理学的な分野、計算機と脳などの情報工学的な分野まで幅広く考察されているので、「脳」や「人間」に興味がある方にとっては、すごく参考になるのではないかと思います。
 個人的に特に興味深かったのは、「脳という物質からなぜ心が発生するのか。脳をバラバラにしていったとする。そのどこに『心』が含まれていると言うのか。徹頭徹尾物質である脳を分解したところで、そこに心が含まれるわけがない」というよくある疑問への養老さんの考え方。
 養老さんは、「脳と心は、心臓と循環のようなもので、脳や心臓は「物」だけれども、心や循環はその「作用」だ」と言います。だから脳という「物」から「機能」である心が出てくるはずがなく、脳と心は、同じ「何か」を違う見方で見たものなのだそうです。そしてヒトは、「脳=構造」と「心=機能」を分けて考えがちですが、われわれの脳は、そうした見方をとらざるを得ないように構築されているのだとか。生物の器官について、構造と機能の別を立てるのは、ヒトの脳の特徴の一つだと養老さんは言っています。
 もう一つ興味深かったのは、「脳と計算機の関係」について。養老さんはヒトの脳の未来像を二つに分けて考えているそうです。
 その一つは「脳と計算機」との関係。脳と計算機の接続という方法や、脳の能力の多くを計算機に代替させる方法などです。
 そしてもう一つは、ヒトの脳そのものを変更することだそうで、ヒトの脳は三百万年の進化過程で、約三倍の大きさになったそうですが、それをさらに進める方向だとか……巨大な脳を持った「超人(?)」って、なんだかSFのようですが、考えてみれば、これまでに起こってきたことなのだから、同じことが起こる方がむしろ自然なようにも思えます。そして私たちは、今やすでに脳に「外から」干渉する手段も持っているのだから……巨大な脳の重さを身体でどう支えるかなどの問題がありますが……月や火星など、重力が地球よりも小さい環境で、巨大な脳を持った超人が活躍する、そんなSFのような未来も「アリ」かも(汗)。
 いろんなことを考えさせてくれる本でした。
 ただ……ここで紹介しているのに、こう言うのもなんですが(汗)、この本に興味を持たれた方には、同じ養老さんの『考えるヒト』を読むことをお勧めします。『考えるヒト』は、あとがきで養老さんご自身が『唯脳論』の解説に近い、と言っている内容のもので、『唯脳論』より分かりやすく書かれています。しかも発行も『唯脳論』の10年後なので、脳に関しても新しい知見が取り入れられていると思います。
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 養老さんの他の本、『バカの壁』、『「自分」の壁』、『解剖学教室へようこそ』、『考えるヒト』に関する記事もごらんください。
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 養老さんは、他にも『ブレインブック THE BRAIN BOOK みえる脳』、『ビジュアル版 新・脳と心の地形図』などの本を出しています。

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