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第1部 本

文学(絵本・児童文学・小説)

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ホワイトダークネス

『ホワイトダークネス』2009/3/1
ジェラルディン マコックラン (著), Geraldine McCaughrean (原著), 木村 由利子 (翻訳)


(感想)
 南極オタクの内気な14歳の少女が、地底空洞説を信じるおじさんと訪れた南極で、生きるために知恵と気力を振り絞って苦闘するミステリーです。
 物語の中で、騙し合いや殺人まで起こってしまうので、児童文学として紹介するのはどうかなと少し迷いましたが、これらの犯罪は現実世界でも起こっていますし、実際に身近に経験する人は、幸いなことにそれほど多くないと思いますので、むしろ物語で仮想体験することは大事なことだと考えて、紹介することにしました。
「書物は、われわれの中に凍る海をくだく、ピッケルとなるだろう」
 巻末の謝辞の冒頭で、著者が紹介しているカフカの言葉です。カフカは「強烈な真実を読者にたたきこむような本だけを読むべきだ」と語っていたそうですが、大学で教育学を専攻した著者のマコックランさんは、この言葉をきっかけに『ホワイトダークネス』を書いたそうで、父親に失望されていた(と感じていた)孤独な14歳の少女とともに、同じようなさまざまな悩みを心に抱えた読者の、心の氷を砕くピッケルになるのではないかと思います。14歳の少女らしい思春期特有の悩みもたくさん出て来るので、中学生以上の方にお勧めします。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 さて、『ホワイトダークネス』の主人公のシムは、スコット南極探検隊の隊員で九十年前に行方不明になったタイタス・オーツ隊員の大ファンなのですが、内気さと難聴のせいで、学校では孤立しがちな知的な少女です。父親が狂死した後、母親と、父の共同経営者だった友人のおじさんに育てられていたのですが、ある日、だまし討ちのような形で、この尊敬するおじさんに南極旅行に連れていかれます。実は、おじさんは、南極には、地底人と遭遇できる地球内部世界に通じる玄関口(シムズの穴)があると信じていたのでした。
 こうして彼女たちは、ノルウェー人の映画監督父子を交えた四人で、地底への空洞を探す旅に出かけることになるのです。でも……とても頭のいい尊敬するおじさんには、彼女の知らない一面がありました。
 南極の白い闇(ホワイトダークネス)にとりかこまれる苛烈な環境で、激しく吹きすさぶ氷の風が、人々の仮面を一つずつ砕いていきます。
 この物語は、とてもはらはらするミステリーなので、本筋にかかわる部分をあかしてしまうと読書の楽しみを奪うことになるため、これ以上の本筋の紹介は、しないことにします。その代わりに、とても印象に残った部分を以下に紹介します。
 14歳の少女には過酷すぎる環境の中でも、シムは、幻のタイタスと語り合うことで、精神力を保とうと努力し続けます。
 物語の終盤で、彼女は幻のタイタスに、スコットが嫌いだったでしょ?と尋ねるのですが、タイタスの答えは意外なものでした。
「ああ。はじめのころはがまんできなかった。(中略)だが、しまいにはどうか? しまいにはあの男が好きになっていた。全員がそうだった。髪の毛一本一本まで好きだったよ。心根がよくて、気持ちが健全だったから。それから……」(中略)「神よ。好意を向ける相手が他にいたかい? 互いに嫌い合って時間を無駄に費やすなんて、特別ばかげたことじゃないか」
 このようなタイタスの率直で健康そのものの人柄が、どんな状況にも耐えうる強靭さを、シムの心の芯に形づくってきたのでしょう。そしてさまざまな恐怖に満ちているこの物語にも、爽やかな若さを感じさせ続けてくれます。
 白い雪に青い氷、太陽のコロナが虹のかけらとなって散らばるピンクの空など、南極の美しさと過酷さの描写もとても素晴らしいです。
 タイタスを行方不明にし、スコット隊を凍死させた、この美しい南極の白い氷原で、彼女たちは、無事に地球の空洞の入り口(シムズの穴)にたどり着けるのでしょうか。そして……生き延びることができるのでしょうか。
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 ジェラルディン マコックラン(マコーリアン)さんの他の本、『不思議を売る男』に関する記事もごらんください。
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 しかけ絵本『くるみ割り人形』は、マコックラン(マコーリアン)さんが再話を担当している、すてきな絵本です。

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