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第1部 本

文学(絵本・児童文学・小説)

絵本・児童書(日本)

ぼくのメジャースプーン

『ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)』2009/4/15
辻村 深月 (著)


(感想)
 ある日、学校で起きた陰惨な事件にショックを受け、心を閉ざし、言葉を失ってしまった幼なじみの少女ために、少年が犯人と対決する物語。反省もせず、相応の罰も受けない犯人に対する怒りをどうするのか……罰と救済の意味を問いかけてくる児童文学です。かなり重い内容なので、小学校高学年以上の方にお勧めします。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 習字に生け花、ピアノや公文式、さらには短歌まで習っている幼馴染のふみちゃんは、精神的にすごく大人で、主人公の少年「ぼく」の自慢の友達です。でも少し大人すぎるのか、誰とでも仲良しにはなれるけど、いつも一人でいるような女の子でした。
 彼女は動物が大好きで、学校のうさぎの世話を一生懸命やっていたのですが、ある日、近所の医学生によって、うさぎが惨殺された現場に出くわしてしまいます。
 その日の当番は、本当は「ぼく」のはずでした。でも風邪をひいてしまって、ふみちゃんに代わってもらっていたのです。
 血だらけのうさぎを抱きしめて、職員室に助けを求めに走った彼女は、ショックのあまり心を閉ざし言葉を失い、不登校になってしまいました。
 それなのに、20歳の医学生の犯人の方は、大学は退学になったものの、裕福な親が手を回したせいか、執行猶予になって刑務所にも入らず、反省している様子すらありません。
 うさぎ殺しは器物損壊の罪……。
 こんなことがあっていいのか。
 「ぼく」は怒り、悲しみます。
 そんな「ぼく」には、禁じられた能力がありました。それは『条件ゲーム提示能力』、囁きかけることで、相手の潜在能力に働きかけ、何らかの行為を起させる力です。
 お母さんに使用を禁じられた「力」でしたが、今の「ぼく」の「力を使わずにはいられない気持ち」をお母さんは理解してくれて、同じ「力」を持っている親戚のおじさん(先生)を紹介してくれました。
 「ぼく」は先生とともに、犯人に対して「ぼく」がやることを考え始めます……。
 ……というのがストーリー。最後に「ぼく」は犯人と対決し、ある言葉を囁きます。
 それを決めるまでの経緯が、とても丁寧に描かれていて、すごく考えさせられます。
 TVのニュースで、小動物虐待事件や、幼い女の子の誘拐事件などを見ると、反省の感じられない犯人への怒りや、未成年などの理由で実名報道されないことへの怒り(被害者の方は実名報道されるのに、何故、犯人の方は実名報道されないのか?)を感じることがありますが、この本は、それに自分がどう向き合っていくのかを直球で問いかけてきます。
 「先生」からの問いかけ、「ぼく」の迷いが、激しく心を揺さぶります。
 すでに「うさぎ」の命は失われ、犯人が何をしようが、戻ってはきません。そして「ふみちゃん」の心が傷ついたことも……。
 「ぼく」が犯人に囁いた言葉は、「ふみちゃん」を癒せたのでしょうか?
 ……もし癒せなかったとしても、「ぼく」が彼女のために、真剣に努力したことが、彼女には通じたのではないかと思います。
 ところで、精神的に大人だったはずの「ふみちゃん」なのに、作中での落ち込みは少し激し過ぎじゃないの?と思わないでもなかったのですが(汗)、ショックを受けた時には、むしろ思う存分、落ち込んだ方が、最終的には精神的にきちんと立ち直れると思います。そして「ふみちゃん」は、「ぼく」の力なしでも、いつかは一人で立ち直れる子なのだと思います。というより、このショックを自分なりに吸収した上で、一人で立ち直って欲しいと思いました……。
 私もこの犯人には何かを「囁き」たいと思いますが、多分「ぼく」とは違う言葉になることでしょう(「ぼく」ほどの覚悟は、持てそうにないという意味でもありますが……)。どんな人でも、自分の行った行為には、きちんと責任を持って欲しいと思います。
 あなたなら、どんな言葉を「囁く」でしょうか?

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