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第1部 本

文学(絵本・児童文学・小説)

絵本・児童書(日本)

バッテリー

『バッテリー』2003/12/25
あさの あつこ (著), 佐藤 真紀子 (イラスト)


(感想)
 天才的ピッチャー少年とその仲間たちの青春という、よくある少年漫画のような児童文学ですが、登場人物ひとりひとりの心理描写・造形がすばらしくて、主人公の少年だけでなく、周囲の大人たちにすら感情移入して読みふけってしまう作品です。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
 中学入学を目前に控えた春休み、家族の問題(病気)で田舎に転居せざるを得なくなった天才ピッチャー少年の原田巧は、そこで同級生となる永倉豪と出会います。
 ふたりが初めてキャッチボールするシーン(引用)。
   *  *
「原田、本気で投げとるか」
「最初からそんなにとばせるかよ」
「じゃろな。このくらいの球なら、誰でも投げてくるもんな」
 一瞬、言葉が出てこなかった。頭の芯が熱くなる。返球されたボールを強く握りしめた。
 誰でも投げれるだと、ふざけんな。おれの球を、そこらへんの投手の球といっしょにするなよ。
   *  *
 天才少年の原田に、バッテリーを組むことになる永倉豪は、最初から精神的にまったく負けていません。しかも彼は思いやりにもあふれていました。彼に助けられながら、独善的な孤高の天才少年は、しだいに周囲の少年や大人と交流していきます。
 自分の才能に絶大な自信を持っている巧は、傲慢なまでの自尊心を隠そうともせず、いつも自分の力でねじ伏せようとしてしまうので、友人や周囲の人たちと軋轢を起こすのですが、ありあまるそのパワーは、いつの間にか周囲の人々に変化をうながしてもいきます。
 この天才少年は、ただ天賦の才能に恵まれているだけでなく、毎日の長距離ランニングを欠かさないなど、大人顔負けの驚異的に強靭な意志力を持っています。なので、普通の人間にはあまり自己投影できないような人物なのですが(汗)、病弱な弟が生まれたために母親が構ってくれなくなり普通の子供より早く大人にならざるを得なくなったのだろうな、と容易に想像できて、読者としては、彼への反発よりも共感が先に立ちます。
 また、自分が認める存在である祖父(伝説の野球監督)が、自分を褒めてくれないことに苛立ったり、父母が自分の日課や現在の実力をきちんと把握できていないことに怒りを感じたり、日々、思いがけない成長をみせる弟(病弱なので、彼にとってお荷物な存在だけだったはずなのに)に嫉妬に似た感情を覚えたりと、子供らしい自己中心さも内に秘めています。
 話を読み進めるうちに、小学生の頃、エラリイ・クイーンの『Yの悲劇』を読んだ時に感じた違和感をまざまざと思いだしました。その中では、13歳の少年が、「あんな子供が……」と何度も言われるのですが、当時10歳ぐらいだった私にとっては、13歳なんて、中学生で学生服着ていてすごく大人なのに、どうしてこんなに子供扱いされているんだろう、と不思議に感じたのです。自分のことを子供だと思っていなかったからなのですが、親にそのことを言ったら、妙な生き物を見るような目で見返されました……。
 子供は大人が思っているほど、子供ではないんですよね。
 そして子供の頃、巧と同じような「無敵感」を抱いていたことも思い出しました。巧のような天賦の才能があったわけではないので、もちろん根拠のない無敵感だったのですが、たぶん子供の頃は成長が速いうえに、やらされる課題も容易なので、昨日出来なかったことが、頑張っていると次の日の夜までにはなんとか出来るようになってしまうからなのでしょう。こういう「無敵感」というのは、大人には「生意気」と映りがちですが、子供の成長にとってはプラスに働くことの方が多いような気がします。
 この『バッテリー』は、子供だけでなく、大人にも色々なことを感じさせてくれると思います。
   *   *   *
 『バッテリー』には、続編として『バッテリーⅡ』から『バッテリーⅥ』まであります。文庫版の他、単行本版やKindle版などもありますので、購入時にはご注意ください(商品リンクは文庫本版です)。また、新田東と横手二中の試合を相手チーム側からの視点で描いた『ラスト・イニング』もあります。『バッテリー』も『ラスト・イニング』も、頑張っている少年たちのきらめく生き方に、元気をもらえる作品です。

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